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安倍元総理銃撃で注目、統一教会だけじゃない!親が宗教に入信、多額寄付で一家崩壊

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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統一教会だけじゃない!親が宗教に入信で一家崩壊
「Getty Images」より

 宗教界に激震が走っている。安倍晋三元総理が今月8日、奈良県で選挙演説中、凶弾に倒れた。その犯人の動機は、ひと言でいえば「親が信仰していた宗教への恨み」だった。

「もちろん暴力は許されません。でも、わたしも犯人と似たような境遇なので、犯人の彼の気持ちが少しわかります」

 こう語るのは、大阪市内に住むサチコさん(仮名・50歳)だ。大阪府郊外の生まれ育ち。かつて実家は会社を経営しており、裕福な家庭だった。

 だが、両親がとある宗教の活動にのめり込み、熱心さ余って高額献金、自宅スペースや労働力の無償提供を行うようになり、やがて経済的に破綻。一家は離散状態に陥った。

 この辺りの経歴は今回、安倍元総理を襲った容疑者のそれと重なって見える。成人後は「恨みのある宗教団体の幹部らを刺し殺そうと思ったこともあった」(サチコさん)という。

 しかし、そんな砂を噛むような日々のなかでも、ささやかな幸福にありついたこともあった。自らの人生を悪しき方向へと導くその宗教と一部の幹部信者たちだが、なかには信仰で練られた人格者たちとの遭遇もあった。

 だが。後になって思うに、この信仰に裏付けされた人格者たち、否、そう思えた者たちは、サチコさんに「宗教と完全に決別するか否か」の判断を狂わせる役割でしかなかった。

 とはいえ、ずっと子どもの頃からその宗教を軸とした世界しか知らないため、傍らで見ている第三者が思うように、スパッと割り切って人の縁を断ち切ることはなかなかできるものではないだろう。

 サチコさんもそうだった。結局、その宗教団体で子どもの頃から理解を示してくれた先輩からの縁で、その宗教団体の“エリート候補生信者”男性を紹介される。そして結婚。これから幸福な人生が始まると思った。

 しかし、その結婚相手からは、宗教団体での活動や変態性癖を強要される。それへの拒否から離婚し、生活保護受給を経て就職。宗教との縁が途切れて数年経ったとき、結婚相談所の紹介で知り合った同い年の男性と再婚。「無宗教」が決め手だった。現在は専業主婦である。

 そんなサチコさんに、「宗教の怖さ」について語ってもらった。聞けば聞くほど、日々伝えられる報道の「言外の意味」「行間から伝わる言葉」が浮き彫りになってくる。

 なお、本稿では、サチコさんと彼女が話す宗教団体の特定を防ぐため、用いられる宗教用語やその教団特有の言葉はすべて、ごく一般の人が用いる言葉に置き換えて執筆したことをお伝えする。

事件第一報に「どうかわたしが恨んでいる宗教団体であってほしい」

 安倍元総理が凶弾に倒れたとの事件の報せを聞き、そこに宗教が絡んでいるとのマスコミ報道でサチコさんが真っ先に思ったのは、「もしかしてわたしが恨んでいる宗教かも」だった。

 だが、刻々と伝えられる報道で、その宗教名はなかなか詳らかにならない。その間の心境をサチコさんは、「どうかわたしが恨んでいる宗教であってください」と祈るような気持ちだったという。

「一国の総理大臣だった人を殺害するような大事件、その原因がある特定の宗教となると、世間の目も向きます。そうしたら、これまで伝えられることのなかった様々な問題も明らかになると思ったからです」

 やがてメディアが伝える「特定の宗教団体」名が明らかになった。サチコさんにとって恨みも深い逆縁である宗教団体とは違っていた。正直、「残念な気持ち」に襲われた。

「でも、今回の事件をきっかけに、宗教の闇とか信仰の怖さとか、信仰では親と子は別人格であるとか。そうした話への議論が盛り上がるほうへ向かってほしいです」

 宗教の話、とりわけ「親と子」の話題に触れると、心なしか怒気をはらんだ口調となる。それも、サチコさん一家とこの“ある宗教団体”との関わりを聞けば、その是非はさておき、納得のいくところもある。

「小学校4年生くらいまでは“お嬢様”だったんです。経済的にも恵まれていました。小学校5年の途中まで習い事もたくさんしていましたね。バレエ、バイオリン、スイミング、習字、英語、学習塾……」

 こうした習い事も、両親揃っての“ある宗教団体”への入信ですべて断念させられたという。理由は、その宗教団体の地域幹部によるお説教だ。曰く、「バレエなどの贅沢な習い事をさせる費用を教団のために寄付すれば幸せになれる」――。

 ほどなくして、すべての習い事を辞めさせられたサチコさんは、その宗教団体の小学生ばかりが集まるグループに組み入れられた。そして、そこでの“活動”を余儀なくされる。

「若手の幹部信者が、その小学生のグループの世話役です。もしその集まり、会合に参加しなければ、この世話役が家に来て、かなりの長時間指導というか説得をされる。親も幹部信者の言うことは絶対というスタンスです。親は、もはや教団側の人間で、子の話を聞く耳は持ちません」

両親が信仰した時点で、もう親子の縁は切れていた

 その宗教団体への入信はサチコさんの母が最初で、そして母と親交の深かった友人である幹部信者夫婦の説得により父も入信に至ったが、この両親揃って入信した時点でサチコさんは、今振り返ると「もう親子の縁は切れていた」という。

「結局、子どもの意思は無視。すべての価値は宗教であり、そこの指導者に尽くすかどうかなんです。だから子が拒むと、もうそれは親子ではない。従うしか選択肢はないのです。従わなければ教団の幹部信者からの指導は父や母に向けられます」

 つらかった当時を振り返り、時折、涙を見せるサチコさんは、「もし子がその宗教にハマると、それはそれで幸せなのかもしれません」と言い、こう言葉を繋いだ。

「でも、わたしはそれができなかった。親という存在が大きな足かせでした。ただただ耐えるしかありません」

 両親揃っての宗教団体入信は、子どもの目にもわかるほど生活面での変化をもたらすに至った。

「習いごとをすべて辞めさせられてからは、着る服も高級品からリーズナブルなものへ変わり、やがてその宗教仲間の子どもたちからのお下がりに。急速に家が貧乏になっていくのが子ども心にわかりました」

 小学校高学年にもなると、家の困窮ぶりは子どもの目にも酷くなった。まずは住む家だ。近隣からは豪邸と知られていた自宅は売られ、借家の狭い戸建てへと変わった。

幹部信者は持ち家で、高額献金したという話は聞かない

 今でも思い出す光景がある。家の玄関で母が宗教団体幹部から、「家を売ったおカネで寄付すれば、自らの徳を積める」「教団のための浄財」「おカネに執着しないための修行」と、柔らかい物腰ながらも厳しい口調で“説得”されていた。子ども心に「母はいいように利用されている」と思った。

「結局、家を売って安い賃貸住宅へと引っ越しました。それでも父の仕事はうまくいっていたので、そこの信者さんたちが毎日のようにやってきていろいろ集会というか会合を重ねました。その電話代、お茶代、お菓子代など、すべてわたしの実家からの出費でした」

 家を売った金を教団に献金した見返りは、そこの宗教団体の指導者が認めた書き物(といってもコピー)と菓子類だった。それをサチコさん一家が属する地域の教団幹部信者は、「すごいことです」と、やたらと褒めちぎる。

 しかし、その教団幹部自身は「大きな持ち家」に住み、その子どもは皆、私立の大学に通っている。さらに奥さんや子どもたちは教団での活動に参加することもなければ、高額な献金、寄付をしたという話を聞いたことはない。子ども心にサチコさんは当時、「(お金などは)取れるところ、気の弱い人から取るのだろうな……」と思ったと話す。

 サチコさんの父は見栄っ張り、母は頼まれると断れない性格だったという。

いつの時代も、どこの宗教でも、悪いのは煽られて高額献金した末端信者?

 さて、今回の安倍元総理銃撃事件に絡み、容疑者が安倍元総理と関連があると思い込んでいた旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)は、事件後、記者会見を開いた。そこでは「献金の強要はない」との説明があった。これはサチコさんの目にどう映ったのか。

「旧統一教会さんのおっしゃる通りだと思います。教団としては、そうした高額献金の強要などは本当にないのでしょう。あくまでも(信者が)自発的にしたことで、それ以上でもそれ以下でもないでしょう」

 しっかりとした口調、揺るぎのない目線で話す。それが却って何か思うところがあるのかなと思わせる。そして大きく息を吸い、吐き出すようにこう続けた。

「うちの両親もきっとそうでしょう。こういうのって、信者が集まったときの、無言の圧力に負けた人が高額の献金や寄付をするのでしょう。幹部信者は、ただ煽っただけ。教団も幹部信者も責任はなく、(高額献金を)払った人の責任。どう言えばいいのか、言葉が見当たらないです」

 信仰を背景にした高額献金、それを遠因とする一家崩壊――。いくつかの宗教団体でよく耳にする話ではある。だが、これまでそこにメスが入れられることはなかった。教団が強制したという決定的な証拠もないことが大きい。加えて、先にも触れた通り、「あくまでも自発的に献金を行った」という形を整えているからだ。

 今回の安倍元総理銃撃事件で、これまで触れられることのなかった宗教とカネ、その在り方やモラルというところに光が当てられた。

 まっとうで責任ある宗教団体ならば、これからの時代、信者から高額献金を受ける場合、「その献金を受けることは良いことか否か」の見極めはつくことだろう。その見極めがつかないところ、それはもはや宗教ではなく「宗教に名を借りた悪徳集団」だ。

 そうした輩をのさばらせない社会を、今回の安倍元総理銃撃事件を機にわたしたちはつくっていく必要がある。

(取材・文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

1971年兵庫県生まれ。経済ジャーナリスト。『友達以上、不倫未満』『弁護士の格差』(ともに朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)など著書多数。週刊ダイヤモンド、ダイヤモンド・オンライン(ともにダイヤモンド社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。本サイトは発刊時からの執筆メンバー。創価大学教育学部大学院修了という学歴から宗教問題にも詳しい。

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