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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

カルシウム剤・ビタミンD剤で骨粗しょう症が逆に悪化?自己判断で常用は禁物

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
カルシウム剤・ビタミンD剤で骨粗しょう症が逆に悪化?(「gettyimages」より)
「gettyimages」より

 あなたの骨は健康ですか? 認知症となり、寝たきりになってしまう原因の多くが足の骨折です。人間の骨には、ときどき壊され、新しいカルシウムを使って作り直されるというサイクルがあります。

 それぞれの働きを担う細胞があり、壊すほうは「破骨細胞」、作るほうが「骨芽細胞」と呼ばれます。この2つの細胞がバランスよく働くことで、骨は健康を保つことができるようになっています。

 このバランスが崩れ、骨のカルシウムが減ってしまった状態が「骨粗しょう症」です。とくに40歳以降の女性に多く、男性の3倍ほどとなっています。60歳を過ぎた頃からは、男性にも認められるようになるため要注意なのです。中年の女性に多いのは、転倒した際に起こる手首の骨折ですが、年齢が進むにつれ、足の付け根の骨折が大部分を占めるようになります。部位により呼び名が異なり、大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折が代表的です。

 骨の健康維持で主役となっているのが「カルシウム」です。体内に取り込まれたカルシウムは、活性型ビタミンD3に助けられて腸から吸収され、骨芽細胞に渡されます。その活性型ビタミンD3は食品中の「ビタミンD」が体内で変化したもので、一部は日光の紫外線を浴びることで皮膚内でも合成されます。したがって、カルシウムとビタミンDを薬やサプリメントとして取れば、骨の健康は保てるはずでした。

骨折の発生率に差が生じず

 ところが、思わぬ大逆転が待っていました。2022年7月、米国の研究者たちが発表したデータが、その「常識」を覆してしまったのです【注1】。対象は男女約2万5000人で、男性は50歳以上、女性は55歳以上の人たちでした。

 まず年齢、性別、病歴、服薬歴、喫煙歴、牛乳を飲む量など、諸条件が均等になるよう分かれてもらい、一方にビタミンDを、他方にはそっくりに似せて作った偽薬(プラセボ)を飲んでもらうことにしました。すでにサプリメントを常用している人も多いことから、血液中のビタミンD濃度を事前に測定し、グループ間に違いがないようにしました。もちろん参加者には、自分がどれを飲んでいるか内緒です。これほど厳密な段取りで行われた研究は初めてで、結果に期待が持てます。追跡は5年ほど行われました。

 結論は明確でした。ビタミンDを飲んでも飲まなくても、大腿骨も含むあらゆる骨折の発生率にまったく差がなかったのです。気になるのは副作用です。ビタミンDを過剰に取ると、血液中のカルシウム濃度が上がり過ぎて、腎臓結石などの原因になり危険だとする研究も過去にあったのですが、そのような副作用は幸い認められませんでした。

 この研究で用いたのは活性型ビタミンD3で、1日当たり2000単位を服用した場合の効果を調べたものでした。ドラッグストアやネットで購入できるビタミンDサプリメントの多くは、1日量がこれくらいと表示されています。

 この研究結果を受けて、米国のある専門家は「ビタミンDサプリメントを飲むのは、もうやめなさい、研究も中止すべきだ」と言い切っています。ただし反論もあって、なんらかの病気や生活環境によってビタミンDが不足している人もいるため、決めつけてしまうのは危険だとしています【注2】。

 実は、過去にも同じ目的で行われた研究はたくさんあったのですが、対象人数が少なかったり、方法があいまいだったりと、結論がはっきりしていなかったのです【注3】。

サプリメント常用で死亡率がむしろ高まる?

 では、「カルシウム自体」をサプリメントとして服用するのはどうなのでしょうか? この点についても、すでに多くの研究が行われていて、「普段からカルシウムを食事で多く取っていて、かつサプリメントも飲んでいる人」は、死亡率がむしろ高まってしまうことがわかっています【注4】。死亡原因としては、心臓病によるものが多く、過剰なカルシウムが心臓の弁に付着してしまうのも一因と考えられています。

 血液中のカルシウム濃度が高くなり過ぎると、これを体内から排出する仕組みが働きだしますが、その際、つられて大切な骨の中のカルシウムまで引き出されてしまうため、骨粗しょう症が逆に悪化してしまうとも考えられています。

 これらの研究結果を受け、骨粗しょう症の治療目的でカルシウム剤やビタミンD剤は処方しない、という病院が多くなっています。少なくとも、ビタミンDやカルシウムのサプリメントを自己判断で常用するのは、やめたほうがよいでしょう。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】   LeBoff MS, et al., Supplemental vitamin D and incident fractures in midlife and older adults. N Engl J Med, Jul 28, 2022.
【2】   Kolata G, Study finds another condition that vitamin D pills do not help. New York Times, Jul 27, 2022.
【3】   Bischoff-Ferrari HA, et al., Monthly high-dose vitamin D treatment for the prevention of functional decline, a randomized clinical trial. JAMA Intern Med, Jan 4, 2016.
【4】   Michaëlsson K, et al., Long term calcium intake and rates of all cause and cardiovascular mortality: community based prospective longitudinal cohort study. BMJ, Feb 13, 2013.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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