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「患者満足よりスタッフ満足を」 ある開業医が下した決断

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『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』
『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』

 日本全国にクリニックは数あれど、その悩みは似通っている。

 患者はそれぞれに健康上の悩みを抱えて、自分のクリニックを頼ってくる。こちらも全力で彼らに寄り添おうとする。しかし、それゆえに医師もスタッフも疲弊してしまう。現場スタッフの犠牲の上に成り立つ医療は、長続きしない。

勤務医よりきつい?開業医のリアル

 『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』(クロスメディア・パブリッシング刊)の著者で、千葉市内で「らいむらクリニック」を運営する來村昌紀さんは、こうした小規模クリニックの現状に苦しんだ末に、「80%の力で仕事をして、ある程度患者さんに満足していただける医療の提供を継続することが重要」という考えにシフトした一人。本書では、医師をはじめとした現場スタッフが疲弊せず、患者も納得のいく医療を提供するためのクリニック経営に行き着くまでの試行錯誤と手に入れたノウハウについて明かしていく。

 來村さんは開業した当初、毎日の仕事についてこんなことを考えていたという。

 外来診療はあるものの、大学病院や大病院の医師とは違い当直や会議はなく、スケジュールの融通もきくから楽だろう。

 しかし、現実は違った。診察が終わってもやることがたくさんあるのに加えて、自分が体調を崩した時に代わって診察をしてくれる医師がいないというプレッシャーもある。相談できる相手がいないため孤独を感じることも多く、診療だけをやっていると最先端の医学的知識から置いていかれるのではないかという不安もあった。

 それでもクリニックは軌道に乗り、徐々に経営も安定してきたのだが、今度は別の問題が表面化した。「人材」である。

 開業当初、クリニックは受付事務2人、看護師1人、看護助手1人、看護師免許を持っていた來村さんの妻と医師である來村さんの6人で運営していたのだが、看護師と看護助手が退職し4人体制に。どうにか回していたものの今度は受付事務の1人も辞めてしまった。人材派遣会社を通じて人員の補充を図ったものの、クリニックとの相性もあり、「雇っては辞める」の繰り返しに。いつしか來村さんは人を採用することに疲れてしまったという。

儲かっているのに誰もが不機嫌で疲れていた

 スタッフが居着かないのには当時のクリニックの状況にも問題があった。

 開業して間もない頃、近くの特養(特別養護老人ホーム)からの依頼で、通常の外来に加えて入所者の予防接種や往診を引き受けていたという。

 徐々にクリニックの患者数が増え、忙しくなっている状況で、特養からの問い合わせへの応対もある。特養からの収入が増えクリニックの経営は右肩上がりだったが、楽しそうに仕事をしているスタッフは誰もいなかったという。儲かっているのに、誰も彼もが不機嫌で疲れた顔をしていた。

 スタッフも自分も目の前の仕事に忙殺される状況で人を雇っても、丁寧に教える余裕はない。これでは新しく採用しても、またすぐに辞めてしまう。

 だから、來村さんは「まずは自分たちがご機嫌で働けるシステムを作る」ことにした。そのための取り組みが「売上を追わないこと」、そして「患者満足度の前に、スタッフの満足度を考えること」だった。

 これは簡単なようでいて大きな挑戦だ。経営者である以上売上は気になり、医師である以上患者を最優先させたくなる。しかし、それでも來村さんはクリニック運営の手法を根本的に変えた。

 外来を完全予約制にし、1日の受診者数を限定することでそれ以上の売上を追うのをやめた。そして「患者最優先」から「まずは自分達自身の満足度を優先」にした。

 これは「患者に真剣に向き合わない」ということではない。「今自分達にできることとできないことを把握し、できないことを無理にやらない」ということだ。

 休日なく、救急なども受け付ければ、患者さんには喜ばれますが、それで現場のスタッフたちが疲弊して倒れてしまったら医療が継続できなくなり、結局は患者さんにも迷惑がかかり不利益になるのではという考え方です。つまり、自分達のできる範囲で責任を持って医療を提供し続けることが大切であると言い換えることができるかもしれません。(P45より)

 「80%で働く」を実現し、余裕のある運営体制に変えたことで、無理せず疲弊せずに医療提供を続けられることができるようになったという來村さん。クリニックの休診日には他の病院に出向いて外来患者を診ることで、他の医師と交流したり最先端の医療情報に触れることもできているという。

 自分やスタッフが心身をすり減らし、毎日の診療に忙殺されている。そんな状況をどうにかしたいが、どうしていいのかわからない。そんなクリニックは來村さんのやり方から得られるものは多いはずだ。(新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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