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日本より耕地面積が狭いスイスやオランダの食料自給率が、日本より大幅に高い理由

文=小倉正行/フリーライター
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オランダの農作地帯(「gettyimages」より)
オランダの農作地帯(「gettyimages」より)

 地球温暖化による異常気象とロシアによるウクライナ侵略を原因とする世界的な食料危機が日本を直撃しているなか、2020年度の食料自給率が8月に発表された。食料自給率(カロリーベース)は前年度より1ポイント高い38%であった。16~20年度の5年間は37%から38%の間を行き来する横ばい状態であり、食料自給率引き上げにはほど遠い。

 20年度の先進国の食料自給率は、アメリカ121%、カナダ233%、ドイツ84%、スペイン82%、フランス131%、イタリア58%、オランダ61%、スウェーデン81%、イギリス70%、スイス50%、オーストラリア169%、ノルウェー43%、韓国35%となっており、先進国で日本より低いのは韓国のみとなっている。アメリカ、カナダ、オーストラリアといった農産物輸出国の食料自給率は3倍から6倍にもなるが、それ以外の国、スイス、オランダ、イギリスが日本よりはるかに高いのはなぜなのか。そこには、日本が学ぶべき教訓がある。

 日本と同じ山岳国であるスイスの食料自給率50%と、日本より12ポイントも高い。スイスの土地面積に占める耕地面積の比率は10.09%(16年)で、日本の11.48%より低い。それにもかかわらず、スイスの穀物自給率は45%で、日本の28%の1.6倍となっている。スイスはアルプスの山岳酪農が有名だが、草地放牧主体で酪農畜産を行っている。飼料を輸入せず草地として自国生産しているために、穀物自給率が高いのである。ほとんどの家畜飼料を米国からの輸入に依存している日本との差が出る。

 国土面積が日本の9分の1であるオランダは食料自給率61%である。オランダはスイスと同じように草地酪農を展開するとともに、施設園芸では効率的な生産を行っている。トマトの生産でも日本の反収の3倍で、日本の6分の1の面積でトマト生産を行い、世界のトマト輸出の2割を占める輸出大国である。

 日本と同じ島国であるイギリスの食料自給率は70%である。イギリスは第二次世界大戦前は、現在の日本とほぼ同じ40%であった。大英帝国として広大な植民地を保持し、植民地からの食料輸入に依存していたのだ。しかし、第一、二次世界大戦で食料輸送船がことごくドイツのUボートで撃沈され、飢餓の危険に直面し、戦後は財界とも連携して自国の穀物生産に注力し、食料自給率を引き上げたのである。

食品の値上げに直結

 現在、世界各地で地球温暖化による異常気象が起こり、オーストラリアでの大規模な干ばつ(20年)、北米における過去最悪レベルの熱波による小麦・菜種生産の不作(21年)、ブラジルの異常気象によるコーヒー豆の高騰などで、私たちの身近な食品の値上げが起きている。

 昨年発表された、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)6次報告書(政策決定者向け要約)では、地球温暖化による異常気象の脅威が高い確度で起こるとしている。6月28日には東京大学生産技術研究所と国立環境研究所が「近い将来に世界複数の地域で過去最大を超える干ばつが常態化することを予測」との共同研究結果を発表した。

 現在の異常に低い食料自給率のままでは、日本国民は近い将来、食料価格の高騰と食料不足という事態に直面することを避けることはできない。

(文=小倉正行/フリーライター)

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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