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五輪汚職、本丸=森元首相と電通トップの逮捕はあるのか?「神宮外苑再開発」利権

文=横山渉/ジャーナリスト
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東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の公式サイトより
東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の公式サイトより

 東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の高橋治之元理事が受託収賄容疑で逮捕され、東京地検特捜部の捜査は今も続いている。贈賄側として紳士服のAOKIホールディングス、広告大手のADKホールディングス、出版大手のKADOKAWA、駐車場運営のパーク24などが摘発されたが、特捜部の本当のターゲットは森喜朗元首相や政界関係者、電通との声もある。

 また、組織委員会とマーケティング専任代理店契約を行っていた電通が、スポンサー選定の過程で入札を行っていなかったため、高橋容疑者が仲介ビジネスを行う余地が広がっていたとも指摘されている(10月18日付読売新聞より)。『東京五輪の大罪』(ちくま新書)の著者でノンフィクション作家の本間龍氏に話を聞いた。

森元首相と竹田JOC元会長

――現在、事件の中心にいるのは電通の元専務、高橋治之容疑者。電通は1社独占のマーケティング専任代理店ですが、代理店は複数でも良かったのでは。電通の法的・倫理的責任についてお聞かせください。

本間氏 専任代理店については規定の手続きを経て決められたものなので、そこは問題ない。ただ、今の汚職事件が起きたのは、専任代理店を1社にして電通にすべて丸投げしていったことが原因の1つだ。電通が組織委員会のすべてを仕切っていたということは事実。マーケティングの意味するところはすごく幅が広くて、電通はあれもこれもやるようになっていった。例えば、博報堂と2社でやるとか、組織委員会の中に監査部門を置くとか、相互監視できるようにすれば良かった。

 高橋さんは電通のOBなので、電通側も彼の言うことを無視することができず、ズルズルと要求を聞いてしまった。結果的に高橋さんが連れてくるAOKIとかKADOKAWAをめちゃくちゃ安いスポンサー料で押し込んだ。それはやはり電通という同じ穴のムジナだったからだ。もし、博報堂だったら高橋さんとは全然関係ないので、彼がどんなに騒いでもまったく聞かなかった。そういう意味では、電通の倫理的責任は非常に重い。1社独占にするとこういう倫理的問題というのは必ず発生するということだ。

――特捜部の狙いは、最終的にどこにあるのでしょうか。森元首相や竹田恒和JOC(日本オリンピック)委員会元会長の名前も出てきます。

本間氏 最終的な狙いは、やはり森元首相ではないか。今、報道されているスポンサー関係の話だけでもこれだけ色々な問題が出てきているので、実はもっと巨額の金が動いていたり、他にも政治家が絡んでいる可能性もある。

 森元首相は、国立競技場建て替えや神宮外苑再開発に10年以上前に最初から関わっていた。オリンピックを招致したから神宮外苑を再開発しなければならないということにして、都営霞が丘アパートを取り壊し300世帯を追い出したりした。神宮外苑再開発のためにオリンピックをダシに使っていたにすぎない。

 竹田元会長は、招致活動において贈賄疑惑でフランス司法当局の捜査を受けているので、それがくすぶっているけど、それはもう時効になってしまった。特捜が今追いかけているのは、例えば、パーク24の件とか。竹田元会長はこの会社の社外取締役だったが、唐突にオリンピックスポンサーになった。そこに何かしら絡んでいないか。

――国民のほとんどは、オリンピックを招致したから国立競技場を建て替えたと思っている。実際は、神宮外苑を再開発する理由付けのために招致したわけですね。

本間氏 結局、森元首相にせよ、竹田元会長にせよ、いわゆるスポーツ利権の代表者なわけ。スポーツイベント関係といえば、必ず彼らはいろいろなところで名前が出てくるし、スポーツ行政でも大変な力を持っている。特捜部にしたら昔から不正の温床といわれていた部分にメスを入れたいということだと思う。

 特捜にしたら逮捕までいけるかどうかわからないので、今はできるだけスポンサー関係の怪しいところを片っ端から摘発して、その中から森・竹田に何がしかの金が流れてないかというチェックをしているのではないか。特捜でも気づいていなかったルートがポロっと出てくればということもあるだろう。

35人目に決まった理事

――オリンピック組織委員会の理事は「みなし公務員」なので、職務に関する金銭の受け取りが禁止されています。受託収賄で起訴するにはAOKIが高橋元理事のどんな職務権限に期待して依頼したのかがポイントですが、高橋治之元理事は一貫して容疑を否認しています。

本間氏 高橋さんからすれば、何か紹介してうまくいけば手数料をもらうのは当然だと見える。彼が生涯かけてやってきたビジネスのやり方は手数料商売なので、特別悪いことをしたわけではないという理屈だ。だけど、みなし公務員だったらダメでしょ、ということになる。彼が組織委員会の理事になっていなかったら、今回の容疑では立件できていなかったかもしれない。日本の法律では、個人間に贈収賄はない。理事にならずに高橋さんが個人で金をもらっていただけなら、引っかからなかった。

 では、理事にならなければよかったのかといえば、そこは微妙で、確かに高橋さんはすごく有名な人だったけど、やはり、名刺の肩書に組織委員会理事とあれば、組織委員会内で力があるのだろうって思われるわけだ。だから、もし理事でなかったら、そもそもAOKIもKADOKAWAも高橋さんに相談しに行かなかったかもしれない。組織委員会理事という肩書きがあるからこそ、みんな高橋さんに群がったわけで。

――2014年1月に発足した組織委員会は、当時の定款では理事の上限は35人で、高橋元理事は最後の35人目に決まった理事ですね。

本間氏 組織委は14年4月に電通を専任代理店に指名し、高橋さんはその2カ月後の6月に追加で承認されている。それも結局は、当時の組織委会長だった森さんが押し込んだわけだけど、なぜなんだということ。理事の名刺を持たせておけば、表向きのスポンサー開拓、つまりウラ金をもらわない一般的なスポンサー開拓がしやすいだろうと、そういう理屈が立つといえば立つが。

「五輪を日本で開催する場合は電通を外したほうがいい」

――特捜部の今後の捜査について、どう見てますか。

本間氏 政治家ルートについては、まだあと数カ月はかかるのかもしれない。もし、現役の国会議員が絡んでいるということになると、国会開会中には逮捕できないので、今国会が閉まる12月の上旬ぐらいまでは政治家ルートには手をつけないのかもしれない。

 それから、政治家ルートを本気で捜査するうえで、安倍元首相が亡くなったというのは非常に大きい。安倍さんが意識的に検察を抑えていたという見方もなくはないけど、やはり、オリンピック招致が決まったときの首相だったわけだし、自民党内の最大派閥を率いていたというのもあって、検察としては非常にやりにくかったに違いない。その方が急にいなくなってしまった。スポーツ利権のドンというのは森元首相なんだけど、森さんはすでに現役の政治家ではないし、明確に森さんや安倍さんの力を引き継ぐ政治家ははっきりしていない。検察としては、これは一大チャンスと思って動いたのかもしれない。

 検察は12月も10日過ぎると、年末休みに入ってしまう。実質的にはもうあと1カ月ちょっとぐらいしかない。スポンサールートは年内いっぱいで終わりだろう。そうじゃないと、高橋さんの勾留も、勾留期限が来たら逮捕して伸ばして、というのを繰り返すのは法的にはあまりよろしくない。いわゆる、日本伝統の人質司法みたいになっている。海外だったら絶対あり得ない。だから、年内に決着つけるのではないか。

――今回の汚職事件は、高橋治之元理事や森元首相だけの問題でしょうか。

本間氏 高橋さんというものすごくアクの強い人が中心にいるので、「あれは高橋が悪い」「ああいうすごい力を持った人がいたから汚職が起きた」みたいなことを言うテレビコメンテーターがいるけど、実際はそうではない。もちろん、高橋さんを皆が頼りにしていたのだが、もし高橋さんがいなかったら、どうだったか。

 今回の事件は、高橋が企業を回って勧誘して起きたわけではない。AOKIやKADOKAWAなどがスポンサーになりたいけど、スポンサー料が高いからダンピングできないかと言って、高橋にすり寄って来た。オリンピックのスポンサー制度や物販システム自体が裏口入学とか贈収賄を生む構造になっているので、高橋さんを排除しても、現在のスポンサー制度の透明性を徹底的に確保しなければ、結局は高橋さんに替わる人物が現れるだけで、何も変わらない。

 スポンサーがなければ、今はどの国でもオリンピックは開催できないのだが、完全入札による1業種1社に戻さないとオリンピックの透明性は確保できない。従来の1業種1社を崩して東京方式にしたのは高橋さんや組織委員会だ。もし、将来的にまた日本で開催する場合は、電通を外したほうがいい。そんなことできるのかとたじろぐ人もいるけど、外せばいいだけの話。そうじゃなければ、オリンピックをやらないほうがいい。

逮捕・起訴を利用して「本丸」の捜査?

 今後の展開について、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように解説する。

「正直、この問題はどこまで広がるかわかりません。特捜部の狙いとして、政治家や電通ということもあるのでしょうが、すでに逮捕された側も『これだけは』として絶対に口を割らないラインがあると考えられます。

 贈収賄の汚職が広がれば広がるほど、これからの裁判も長引きます。すでに逮捕された件(AOKI、KADOKAWA、大広、ADKHD、サンアロー)は、特捜部にとって、言わば『攻めやすい』から先行して逮捕・起訴したのであって、(弁護士として、本来認めたくはないことですが)この逮捕・起訴を利用して『本丸』の捜査をしているのでしょうが、『本丸』への道筋が長いほど、結局、高橋容疑者たちの拘束時間も長くなります。であれば、『これだけは』として口を割らずに他の裁判だけを済ましてしまおう、というラインがあることは想像できます。

 今、電通が注目されていますが、『骨抜き』や『仲良し企業だけを仲介した』というだけでは犯罪は成立しません。例えば、組織委に対し、電通から手数料率の増額を図ることを目的としたカネが流れているなどしていれば、立派な贈収賄罪が成立します。

 最近、電通が嫌いなコメンテーターが謹慎したり、いろいろと注目を浴びているようです。私は『神聖な五輪が!』などと声高に叫ぶことはしませんが、テレビで捜索や逮捕の現場映像が流れる際、広い邸宅、高い車、これまでの立派な経歴などが一緒に映ります。人生の終わり近くになって犯罪者として扱われるのは、人生とはいろんな意味で“辻褄”があってしまうものなのか、と考えてしまいます」

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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