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松崎のり子「誰が貯めに金は成る」

「国民年金65歳まで納付」に怒る人が見落としている論点…年金は本当に払い損か?

文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト
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年金手帳(「gettyimages」より)
「gettyimages」より

 電車で知人と移動しているさなか、いきなり聞かれた。「国民年金を払う期間が65歳までになるって、どういう意味?」。スマホにそういうニュースが流れてきたらしい。詳細も見ていなかったので、「今は定年後も65歳まで働く人がほとんどだし、そのまま再雇用で厚生年金に加入し続ける人も多いから、国民年金も揃えるのかも」と答えておいたのだが。

 あとから確認したところでは、社会保障審議会年金部会が2025年の年金制度改革改正に向けた検討を始める中に、そうした案が含まれている(らしい)とのこと。そもそも年金部会はスタートしたばかりだし、この話が決まったわけではない。

 しかし、例によってメディア界隈は大騒ぎになっていた。年金制度を破綻させないために、国民にさらなる負担を強いようとしている――という辛口だ。定期的にやってくる「年金はきっともらえない」祭り。どうして我々は幸福な未来より悪そうな将来予想を示されると、こんなに興奮するのだろうか。ネットの反応などを見ていると、結局のところ「払ってももらえないなら払い損だ」という損得勘定ならぬ“損得感情”が根底にある気がする。筆者は社会保障の専門家ではないので、この損得感情から年金不安を斜め読みしてみようと思う。

社会保険とは“困った時に役立つ保険”

 言わずもがなだが、年金は社会保険に含まれる。健康保険は健康を損なった時に備え、介護保険は介護時に備え、雇用保険は失業に備え――というように、困った時に使うものだ。年金は老後の生活費不足に備える、これまた保険なわけだ。積み立てたものを取り崩す金融商品ではないので、本来なら損得をあれこれ語るのは違う。

 保険はいざという時のために入るので、使わないで済むならその方がいい。たとえば、民間の医療保険に入っている人は多いだろう。しかし、多くの医療保険は入院したり手術したりしないと保険金は出ない。病気にかかり、「やったー、やっと入院できた、これで元が取れた!」と喜ぶ人はあまりいないだろう。

 年金も保険である以上、老後に十分な収入が稼げなくなった時に使うものだ。定年後も働き続け、十分な生活費が稼げるなら、その間は年金をもらわない選択もある。繰り下げておき、いよいよ収入がなくなったら受給すればいい(受け取らなかった期間の年金をまとめてもらうこともできる)。

 なにせ、平均寿命は男が81.47年、女が87.57年(2021年度)で、2020年に生まれた人は、男は約3割が、女は5割以上が90歳まで生きるという。となると「働けない、十分な収入がない期間」はどんどん延びる。もし、年金の納付期間が5年延びても、その5年以上長生きするかもしれない。なにせ2000年時点の平均寿命は男が77.72歳、女84.6歳で、20年で約3~4年延びている。

「それにしても、年金保険料は高い!」というお怒りもあるだろう。筆者ももちろん払っているので、毎月泣けてくる。しかし、それこそが多くの人が長生きする可能性が高いことの表れだ。その人たちが生きている限り年金を払い続けなくてはならないのだから、そのぶん保険料が高くなる理屈は、ビジネスパーソンなら計算せずともわかるだろう。

 今や65歳を超えても働く人が増えている。家にこもらず社会で働き続けることは健康面にもプラスに働く。ますます長生きしてしまうかもしれない。損得が気になる人は、目いっぱい長生きすることだ。

年金が崩壊して一番困るのは、国とすべての国民

 保険料が高いという話でいえば、現在進んでいる適用拡大、つまり厚生年金に加入できるパート労働者を増やすのは悪いことではない。厚生年金の保険料は労使折半となるため、これまで自分でまるまる国民年金保険料を払っていた人は保険料が安くなるからだ。配偶者の扶養の範囲で働いている第三号被保険者も、その範囲を超えて働くことで、将来もらえる年金を上積みできると思えば損ばかりではない。というより、この物価高にあえて収入を減らすような働き方を選ぶことこそ損ではないのか。

 それでも十分な収入がなくて生活が苦しい人には、年金保険料の免除制度だってある。国は誰かれ構わず年金の原資をむしり取ろうというわけではない。

 そもそも年金制度が崩壊したとして、一番困るのは国の方だ。「どうせ年金はもらえないから払わない、いざとなったら生活保護に頼ればいい」という声も聞くが、基礎年金の支給原資に使われる国庫負担は2分の1だが、生活保護費には年金のように加入者が払う保険料はないので全額公費で賄うしかない。

 もし生活保護費が膨らめば、社会保障費の上昇は大変なことになるだろう。そのツケは、消費税のさらなる増税や社会保障費の引き上げという形を取って、国民に跳ね返ってくるかもしれない。年金制度が持続しないと、国も国民もみんな困るのだ。それこそ大損だろう。

「年金制度崩壊」というフレーズには、どこかパニック映画のような心地よさがある。しかし、たぶん崩壊しないし、崩壊を望んだりしない方が自分たちのためだ。

年金の目的は「防貧」。それだけで悠々自適な老後は無理

「それでも、年金額はどんどん減っているではないか。年金だけではとても暮らせない」というのも現状だ。「昔の人は悠々自適だったのに、不公平だ!」という声も聞こえそうだ。とはいえ、それは公的年金のせいだけだろうか。かつて日本の景気は右肩上がりで、企業の福利厚生も充実し、金利も高く、退職金の運用も楽だった。企業年金も十分受け取れ、それこそ悠々自適な老後を謳歌した世代もいるかもしれない。

 しかし、今や日本企業は儲からなくなり、給料も上がらなくなったため、給料に連動する厚生年金の受取額も増えにくい。企業年金も低金利ゆえに運用が難しく、確定給付型から確定拠出型へ移行している。国の制度がうんぬん以上に、日本の景気が上向かないことが、先代のような豊かな年金暮らしを幻にしているのだ。文句は国だけでなく、企業や日銀にもぶつけた方が公平というものだ。

 もともと、公的年金の目的は「防貧」とされる。生活の基盤となるよう支給され、貧しさに陥るのを防ぐものだ。年金だけで豊かに暮らせる役割までは期待するのは酷だろう。

 不満はあれど、老後にお金の心配なく暮らしたいなら現役時代に資産形成に励み、なるべく長く働いて、それを積み増していくしかない。国がiDeCoやNISAを使いやすくしているのはそのためだ。iDeCoへの加入は国民年金の被保険者であることが条件のため、もし65歳まで加入期間が延びればiDeCoの運用期間もそこまで延びるだろう(会社員など厚生年金の被保険者は2022年10月から65歳まで延長済み)。そっちの方は存分に損得で考えよう。

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。
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