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中国、不動産バブルなど債務問題が深刻…習近平の社会主義回帰で経済成長減速が確実

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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中国(「gettyimages」より)
中国(「gettyimages」より)

 10月に5年ぶりの中国共産党大会が開催され、予想通り習近平の総書記続投が決まった。しかし、習近平が目指していた党主席ポストの獲得はならなかった。党内における核心的地位をほぼ手中におさめている習近平だが、党内に個人崇拝の禁止にこだわる勢力が少なからず存在することを思い知らされたようだ。よって、党内基盤の強化がもう一段必要と感じ、李克強、汪洋、胡春華など共青団の一掃と側近で固めた常務委員人事を強行した。習近平はこれで次のステップへの備えは万全と考えているのかも知れない。

 しかし、人事だけで習近平の望みが実現するものでもない。党主席の地位に到達するにはそれに相応しい実績を上げることが肝腎である。第1が経済社会の発展持続であり、習近平が言うところの「社会主義現代化」の実現である。今回、党規約に「2035年までに社会主義現代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに中国を社会主義現代化強国に築き上げる」と書き込んだ。社会主義現代化強国とは世界の覇権を握ることに他ならない。

 第2は台湾統一である。1971年に中華人民共和国が中国を代表する唯一の政府と国連で認められたが、いまだに中華民国政府が存在するのが現実の姿だ。さらに、台湾独立運動の火種がある以上は1日も早く台湾統一を実現して「一つの中国」を実現させること、これが中国共産党の悲願でもある。よって、今回の党規約にも「断固として台湾独立に反対し、抑え込む」という文面が追記された。台湾統一を実現すれば習近平は党主席の座に大いに近づく。習近平が「武力統一の可能性を放棄しない」と述べたのもうなずける。

 第3は習近平思想教育の強化である。学校における習近平思想教育は小学校から大学院までの授業で必修となっている。メディアでも習近平礼賛の番組が溢れ、書店では習近平思想に関する書籍が山積みにされ、国民の習近平個人への崇拝の念が高まるように仕組まれている。党規約の個人崇拝の禁止は紅衛兵が毛沢東語録を掲げて扇動した文化大革命の苦い経験から導入されたものだが、習近平は権力集中のために先人の知恵を反故にしようとしているわけだ。

 一方で、個人崇拝を実現しようとすれば、政策の失敗は許されない。問題の1つがゼロコロナ政策だ。世界がウイズ・コロナで経済活動を再開しているのに、中国はゼロコロナ政策に固執して方針を変えようとしない。先日、中国疾病対策センターのトップが中国製ワクチンの効果はあまり高くないと口を滑らせたようだが、ワクチンの効果が低ければ人流の増加はコロナ感染の爆発的増加につながるので、怖くてゼロコロナ政策しかとれないのかも知れない。

鄧小平の「先富論」を否定

 格差対策として習近平が重視している「共同富裕」は鄧小平の「先富論」の否定である。しかし、改革開放路線を否定すれば、国内投資及び海外からの投資にもブレーキが掛かり、成長減速につながるのは明らかである。しかし、習近平は共同富裕の旗を降ろさないばかりか、市場経済よりも計画経済が優れていることをアピールするために、反「経済特区」である計画経済モデル都市建設構想を検討しているようだ。

 政策の失敗を認めたがらないので、自ずと情報統制は厳しくなる。市民の閉塞感が強まっているのは確かだ。共産党大会の3日前の10月13日、北京市内の高架橋に習近平批判の横断幕が掲げられる騒ぎがあったが、市民のストレスの高まりを示す事例だ。今回の共産党大会で習近平は経済よりイデオロギーを重視する姿勢を一段と鮮明にした。これには中国の企業家も失望を隠せない。共同富裕では富裕層の財産はいつ没収されるか分からないと戦々恐々としている。

 また米中対立から今後、中国は西側のサプライチェーンから排除されるのは確実だ。西側の先端技術も資本も入って来ないし、さらに国内的には不動産バブルなど債務問題も深刻さを増している。経済よりイデオロギー重視で社会主義への回帰を進めようとしている習近平だが、成長が止まれば社会主義現代化の実現は難しい。総書記3期目続投は決まったが、習近平の党主席への道のりは極めて厳しいというしかない。

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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