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田中圭太郎「現場からの視点」

東海大学、教員が異例ストライキ…25年勤務の講師を雇い止め、労働契約法の特例濫用

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
東海大学、教員が異例ストライキ…25年勤務の講師を雇い止め、労働契約法の特例濫用の画像1
東海大学・静岡キャンパスで行われたストライキのもよう

 静岡県清水市にある東海大学の静岡キャンパスで2022年12月上旬、2度にわたって非常勤講師がストライキを実施した。大学の教員がストライキを起こすのは異例の事態だ。その理由は、東海大学が長年勤務してきた非常勤講師に雇い止めを通告したことに対し、撤回を求めるためだった。

 東海大学は全国のキャンパスで働く多くの非常勤講師に、雇い止めを通告しているとみられている。11月にはそのうち8人が、大学を相手取って集団提訴も起こした。問題は、東海大学が進める雇い止めが、非正規で5年以上働く人たちに無期雇用転換権を認める労働契約法の趣旨に反している可能性が高いことだ。

 ストライキのあとも東海大学は雇い止めの姿勢を変えていない。そして、東海大学に限らず、2023年3月末に同様に雇い止めをされる大学の非常勤講師や、研究開発法人に勤務する研究員が存在する。東海大学で起きたストライキの背景を探る。

2日間で5人の非常勤講師がストライキ

 東海大学静岡キャンパス清水校舎では2022年12月5日午後、正門の外に「ストライキ決行中」と書かれた大きな横断幕が掲げられた。地元の労働組合などから、多くの関係者が集まっていた。そこに、授業を1時間で切り上げてきた非常勤講師2人がキャンパス内から出てくると、大きな拍手が送られた。2人は東海大学教職員組合の組合員。事前に大学側に通告した上で、100分間の授業のうち40分間の「分限ストライキ」を実施した。

 同様のストライキは12月9日にも実施されている。ストライキに参加した非常勤講師は、2日間で5人にのぼる。5人とも20年近く東海大学に有期雇用契約で勤務していたにもかかわらず、2023年3月末での雇い止めが通告されていた。

 東海大学は東京、神奈川、静岡、熊本、北海道と全国にキャンパスがある。静岡キャンパスに限らず、全国のキャンパスで語学や理数系・文系の科目を担当している多くの非常勤講師が、3月末での雇い止めを通告されたとみられている。雇い止めをする動きが見え始めたのは、2022年4月前後だった。それまで東海大学には労働組合がなかったが、雇い止めが広がっている状況を受けて、専任教員や非常勤講師らが5月に東海大学教職員組合を結成した。組合では大学側に団体交渉を申し込み、雇い止めを撤回するよう求めてきた。しかし、大学側が応じなかったために、今回のストライキに発展したのだ。

18年勤務の非常勤講師がメール一通で雇い止め

「私は18年にわたって契約を更新してきました。それが、2023年度の契約は厳しいと連絡を受けて、非常にショックを受けました。面談を受けることもないまま、最終的には『これまでありがとうございます。もう結構です』というメール一通で雇い止めされたのです」

 こう話すのは、ストライキに参加した非常勤講師の1人だ。2013年に改正された労働契約法では、5年以上勤務する有期労働契約の労働者が無期雇用に転換できる権利を得られるようになった。2013年4月を起点に法律が適用されたので、2018年4月以降に無期雇用転換権を得られるはずだった。にもかかわらず、東海大学は多くの非常勤講師の無期雇用を認めていない。大学の主張は、無期雇用転換権は5年ではなく10年で生じるというものだ。

 改正労働契約法が施行された翌年、10年で無期雇用転換権を認める特例が施行された。それが現在の「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(以下、科技イノベ法)と、「大学教員等の任期に関する法律」(以下、任期法)だ。東海大学はこの2つの法律を根拠として、無期雇用への転換には10年が必要だと主張している。その上で、10年を迎える直前に雇い止めを通告したのだ。

 しかし、科技イノベ法は、科学技術に関する研究者や技術者を対象にしたもので、語学の授業のみを担当する非常勤講師は対象にならないと考えられる。専修大学でも科技イノベ法を根拠に語学の非常勤講師に5年での無期雇用転換を認めなかったが、大学を提訴した非常勤講師が一審、二審で勝訴した。事前に対象者であることを説明して契約する必要があるが、東海大学では何ら説明は行われていない。

 また、任期法は適用できる教員の範囲を定めていて、適用する場合には大学はあらかじめ規則を定めた上で、特例を適用することの合意を教員本人から得ておく必要がある。ところが、東海大学は2013年まで両法を遡及して適用するという規則が2015年に作られただけである。そもそも、科技イノベ法と任期法を同時に適用することはできない。5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用転換権を認めない理由に、2つの法律を使うのは無理があるのだ。

 今回雇い止めを通告された非常勤講師の中には、25年以上勤務している人もいる。教職員組合に加入した講師のうち8人が2022年11月17日、東海大学を相手取り、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認」することを求めて東京地方裁判所に集団提訴した。今回のストライキに参加したのは、このうちの5人だった。

文科省が大学などに法律の適切な運用を「依頼」

 2018年以降、多くの大学では5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用を認めてきたが、大阪大学や慶應義塾大学、東海大学など認めない大学が一部存在する。さらに、科技イノベ法の対象で2023年4月に10年を迎える研究者らの雇い止めも懸念されている。

 文部科学省は2022年11月、全国の大学などに対して「無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」と題した文書を出した。この文書では、次のように10年の特例を濫用しないように求めている。

「令和5年4月1日以降、10年特例の運用者について本格的な無期転換申込権の発生が見込まれますので、無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないことに御留意いただき、引き続き10年特例の適切な運用に向けて万全を期していただきますよう、改めてお願いいたします」

 労働契約法の趣旨からいえば、非常勤講師については5年で無期雇用転換権を認めることが求められる。にもかかわらず、東海大学の場合は10年の特例が適用されると主張している。さらに、文科省の見解は、10年の特例の対象だとしても、10年を目前にした雇い止めはすべきではないということではないだろうか。

 東海大学は雇い止めの理由を、「人事刷新のため」と教職員組合に説明しているという。大学のホームページでは12月5日付けで「大幅な組織改編・カリキュラム改定を実施することになり、一部非常勤教員の契約終了に至ったこと、及び当該雇用契約は法令を遵守しており適法」と記載している。ストライキのあとも雇い止めの姿勢を崩していない。

 しかし、東海大学の雇い止めは、法律の趣旨にも、文科省の「依頼」にも沿わないものなのではないだろうか。非常勤講師らは「無期転換を不当に妨害する行為」として、引き続き雇い止めの撤回を求めている。札幌キャンパスでも、1月17日にストライキが実施される予定だ。さらに数人が提訴を予定していて、集団訴訟は拡大する見通しだ。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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