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台湾有事・第5次中東戦争・第2次朝鮮戦争の発生が日本経済に与える影響を検証

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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「gettyimages」より

 プーチンのウクライナ戦争や習近平の台湾武力統一の威嚇など世の中は実に物騒になってなってきた。日本に重大な影響を及ぼすとすれば、台湾有事、第5次中東戦争、第2次朝鮮戦争の3つだろう。

 中国が台湾への武力侵攻に踏み切った場合、「曖昧戦略」をとっている米国が軍事介入を決断するか否かは米世論次第と言える。中国は米世論を見ながら、米政府が軍事介入できないと判断すれば軍事侵攻に動くが、米軍介入の可能性あれば手が出せない。米中戦争という最悪事態は中国も避けたいところだ。

 よって、台湾侵攻があるとすれば、中国が米軍の軍事介入はないと確信した場合だ。ただし、米国は軍事介入はしないが、西側諸国と共に対ロシア制裁と同規模の制裁を中国に課すと予想されるので、日本も西側同盟国の一員として追随を余儀なくされる。西側の対中制裁は金融制裁としてはSWIFTからの中国金融機関の排除、ドル決済禁止、中国政府・人民銀行・中国の銀行・中国企業及び関係ある個人の資産凍結。

 貿易制裁では中国への先端技術製品・部品の輸出制限の強化、民生用の製品・部品の輸出規制導入、中国製品の輸入禁止の拡大など。この結果、日中貿易は大幅減少を余儀なくされ日本経済には大打撃となるだろう。日本の輸出総額はGDPの約2割、対中輸出シェアは輸出総額の2割超、仮に対中輸出が半減すれば、計算上はGDPを2%押し下げる。さらに中国に進出している日本企業は約1万3千社を数えるが、その多くは撤退を余儀なくされるだろう。日本の対中直接投資残高(2017年)は1,170億ドル(約15兆円)と巨額で、中国の台湾武力侵攻が現実化すれば日本企業への打撃は甚大である。日本経済は輸出、中国資産の放棄に加えて、国内経済的には設備投資や消費の大幅な落ち込みは避けられず、様々な波及的効果を考えると少なくとも5〜10%程度のマイナス成長は必至かと思われる。

中東情勢

 中東情勢も新冷戦で緊張激化は避けられない。ロシアのウクライナ侵攻を契機にドローン供与でロシアとの関係が強化されたイランが自信を持って核開発を加速させる可能性がある。その場合、イランに対抗してサウジ等アラブ諸国とイスラエルの軍事協力が進み、中東で新たな戦争が勃発するリスクがある。

 日本はロシア産石油輸入停止の結果、石油の中東依存率は95%にも達しており、仮に中東戦争が起これば、第三次石油ショックは免れない。日本の石油備蓄は約7,500万キロリットルで240日分を保有している。よって、中東戦争で即、日常生活が止まることはないが、戦争の長期化、アラビア湾の航行状況、石油積出港の石油施設に甚大な被害が出るのか否か、様々な条件に応じて、電力、ガソリンなどエネルギー節約の具体的数値が政府から示されるだろう。

 ソーラーパネルなど再生エネルギーへの急速な転換が進められるが、当面の石油危機には間に合わない。仮に一律2割の石油消費カットが半年続くと仮定すれば、1日の石油消費量30万キロリットル/日の8割で24万キロリットル、180日続けば4,300万キロリットルが消費され、備蓄石油は3,000万キロリットルに減少する。生産部門への石油の優先配分、急激な省エネが産業から家庭まで実行されるので、恐らくGDPの減少率は石油消費量の減少率の半分くらいに収まるかと思われるが、それでも10%程度の激しいマイナス成長が予想される。

北朝鮮リスク

 朝鮮半島では新冷戦で中露に頼る北朝鮮の軍事的挑発が激化する可能性が高い。日米韓に対する威嚇として核開発とミサイル開発を一段と進めるが、実際に核の使用となれば米国からの反撃にあい、金正恩体制は崩壊するので自重するだろう。

 可能性としては力を誇示するため、通常兵器による韓国領内への限定的な砲撃、ミサイル攻撃などが考えられるが、この挑発に乗って韓国軍が反撃すれば、軍事衝突に歯止めが効かなくなり、偶発的な形での第二次朝鮮戦争に進展するリスクがある。もし、日本への攻撃にエスカレートすれば、日米安保第5条に則り、米軍が北朝鮮への攻撃に参加するので、北朝鮮としてはあくまで朝鮮半島内での軍事行動に限定するだろう。

 それでも日本の対韓輸出は輸出総額の7%であり、戦争になればストップしてしまうので、計算上はGDPを1.4%押し下げる。日本の対韓直接投資残高は約400億ドル(2021年)、5兆2千億円であり、戦火の程度にもよるが、日本企業は巨額の資産を失うリスクがあるので、GDPは2〜5%程度のマイナス成長が予想される。このような3つのリスクの1つでも実現すれば深刻な影響が日本に及ぶ。新冷戦時代というが、熱戦になるのは避けてもらいたいものだ。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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