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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

病院で検査さえ受けなければ…検査の悪弊、余命3カ月宣告の高齢者の多くが何事もなし

文=岡田正彦/新潟大学名誉教
病院で検査さえ受けなければ…検査の悪弊、余命3カ月宣告の高齢者の多くが何事もなしの画像1
「gettyimages」より

 ケガや病気で手術を受けたことがある、という人は多いものと思います。昔も今も手術の前には、いろいろな検査が当たり前のように行われています。手術中にもしものことがあっていけないという発想に基づくものですから、いわば当然と誰もが思い込んできました。しかし、実はほとんど意味がないか、ときには有害な行為であることがわかってきました。手術にかかわらず、無駄な検査を受けることの弊害について、最新情報をまとめてみました。

 手術の前には、レントゲン撮影、心電図、血液、尿など多くの検査が行われています。イギリスの医師たちは、血液検査を中心に、本当に必要だったのかという疑問を抱き、ある調査を行いました。【注1】。男女合わせて100名の患者について、手術前に行われた貧血や糖尿病などの血液検査8項目について調べたところ、約9パーセントが正常値を外れていました。しかし現場の医師たちに、「検査値に異常があった患者に対し、麻酔や手術のやり方を変えたか?」との質問をしたところ、変えたと回答のあった対象患者はわずか2名でした。しかも、その検査は「血糖値」の1項目だけでした。つまり、それ以外の検査は、やる意味がなかったのです。確かに血糖値は、環境や精神状態の変化で大きく上下し、ときに命に関わる事態も引き起こしますから、納得の結果です。

 手術の前に行われる検査のひとつに「運動負荷心電図」があります。文字どおり、ランニングなどで体に負荷をかけて、心臓が耐えられるかどうかを調べるものです。米国の整形外科医たちが、股関節や膝関節を人工関節と置き換える手術をする際に、この検査を行った患者と行わなかった患者の違いを調べる研究を行っています【注2】。

 わかったのは、運動負荷心電図の検査を受けても受けなくても、手術中も手術後も健康状態に、何ら違はなかったという事実でした。実は、この話には伏線がありました。今から20年前、すでに米国心臓病学会など複数の組織が、手術前の検査としては必要がないと勧告していたのですが、現場の医師たちが訴訟などを恐れて、止められなかったのです。

 日常の健康診断でも、まったく同じ問題が指摘されています。たとえば男性の前立腺がんの検査「PSA」です。全米予防医学会議と全米泌尿器科学会は、この検査を「55歳から69歳の男性に限定すべき」としています。かつ、メリットとデメリットについて主治医と十分な相談が必要との条件つきです。しかし全米各地の健診センター600カ所のホームページを調べた調査によれば、不利益にはいっさい触れることなく宣伝文句ばかりが書かれていたそうです。

 乳がんの検査である「マンモグラフィー」にも同じ状況があります。米国のある公的組織は、49歳以下の若い女性が定期的にこの検査を受けると、利益より不利益のほうが上回ってしまうとの警告を出しています【注3】。しかし各地の検診センターのホームページには、やはり不利益についての記載はありませんでした。

 米国のメディアは、肺がんを調べる「レントゲン検査」や女性の子宮頸がんを調べる「細胞診」にも同じ問題があると警告を鳴らしています【注4】。ある研究者は、医学専門誌に投稿した論文で、「10年かけて1,000人の検査を行っても、がんの死亡を救えるのはたった1人だけ」と記しています【注5】。この言葉が意味しているのは、次のような事例が無数に存在するということです。

 少しでも検査結果が正常範囲を超えていると、検診を担当する人には「見落としは許されない」との心理が働き、いくら微細な変化であっても「要精密検査」との判定結果を下します。その割合は、1,000人が10年間、検査を受け続けると600人にもなることがわかっています。のちに、がんではなかったと判定される人たちです。

 精密検査のため病院を受診すれば、受けて立つ医師たちにも見落としは許されないというプレッシャーがあり、あらゆる検査が行われることになります。エックス線を使った画像検査は必須ですから放射線被曝の害は免れません。最新の画像診断装置は、がんではない極小の変化まで映し出します。

 そのあと待っているのは、手術、放射線治療、抗がん剤治療です。検査さえしなければ、生涯、受ける必要のなかったものです。手術は体に大きな負担を与えるため免疫力を低下させ、抗がん剤には「発がん性」があるため、次々に新たながんを引き起こす可能性があります。がんには「急速に広がっていくタイプ」「いつまでも大きくならないタイプ」「自然に消えてしまうタイプ」などがあります。急速に広がるタイプでは、いくら早期発見・早期治療を行っても命を救うことはできません。

 一方、知っておくべきは、いつまでも大きくならないタイプのがんも存在することです。たとえば前立腺がんのほとんどは、生涯にわたって広がっていくことがなく、治療の必要がないことがわかっています。乳がんについても同様です。

「余命3カ月」と宣告された高齢者を多く診療してきた私の経験でも、ほとんどの人は何事もなく経過し、天寿を全うすることができています。いかなる検査にも必ず不利益があることを知っておかないと、自分が損をしてしまいます。

(文=岡田正彦/新潟大学名誉教)

参考文献
【1】   Johnson RK, et al., Routine pre-operative blood testing: is it necessary? Anesthesia 57: 914-917, 2002.
【2】   Rubin DS, et al., Frequency and outcomes of preoperative stress testing in total hip and knee arthroplasty from 2004 to 2017. JAMA Cardiol, Sep 30, 2020.
【3】   Habib AR, et al., Recommendations from breast cancer centers for frequent screening mammography in younger women may do more harm than good. JAMA Int Med, Mar 15, 2021.
【4】   Span P, Why many older women are getting Pap tests they don’t need. New York Times, Dec 18, 2022.
【5】   Welch HG, Cancer screening – the good, the bad, and the ugly. JAMA Surg, Apr 6, 2022.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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