たとえ都心で暮らしていても、私たちは植物に囲まれている。周りに森や草むらがなくても、スーパーに行けば野菜があり、果物がある。家庭ではイネからとれる米を炊いて食べている。普段、何気なく食べているこれらの植物も、よくよく考えると不思議なことやわからないことだらけではないか?たとえば、朝食やデザートの定番の「バナナ」は植物の果実だが、タネらしきものはない。一体どうやって繁殖しているのだろうか?
バナナはなぜタネがないのか?
『面白くて眠れなくなる植物学』(稲垣栄洋著、PHP研究所刊)は植物にまつわる不思議や疑問に答えてくれる一冊。先述のように、バナナにはタネらしきものはない。ただ、野生だった頃のバナナには実の中に硬いタネがびっしり詰まっていた。突然変異によってタネが正常にできなくなってしまったのである。
植物の体は、オスの精核とメスの卵子から一つずつゲノムを譲り受けて、二つのゲノムを持っている。ところが、バナナに起きた突然変異はこのゲノムが三つになるというものだった。ゲノムが二つであれば、新しく精核や卵子を作る時にゲノムをうまく半分に分けることができるのだが、三つあるとこれがうまくできず、種子が正常にできなくなってしまったのだ。
今もバナナの実の中にある黒い小さな粒が、本当はタネになるはずだった部分である。繁殖は、親株の脇から伸びる新芽を利用して行なっている。
紅葉の色を作り出す哀愁の物語
また、山々の緑が徐々に紅葉していくこの時期。なぜ緑だった木の葉が赤くなっていくのかも不思議だ。植物の葉は光合成に使われ、光合成で葉は糖を作り出す。日照時間の長い夏は光合成が活発に行われるのだが、秋になると太陽の光は弱くなり、日照時間も減っていく。それにつれて光合成による糖の生産も低下していく。
そして冬が近づくと、光合成による糖の生産よりも、呼吸による糖の消費の方が大きくなり、雨が少ない季節がら、葉からは貴重な水分が蒸発してしまうように。こうなると、葉は植物本体にとって「お荷物」になってしまう。植物は葉の付け根に「離層」という水分や養分を通さない層を作り、お荷物となった葉を切り捨てようとするのだという。
ただ、それでも葉は弱い日光を受けて光合成を続け、糖分を作り続ける。離層に阻まれてしまうため、糖分は植物本体には向かわず葉の中に蓄えられ、その糖分からはアントシアニンという赤い色素が作られる。紅葉はこの赤い色素の色である。
どんなに夏の間がんばって光合成をして植物本体に貢献しても、秋になって「稼ぎ」が少なくなると容赦なく切り捨てられてしまう葉を思うと、紅葉の色はなんとも哀愁を帯びて感じられる。
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植物の性質や構造、歴史を本書はドラマチックに解説していく。高校の生物の授業が退屈で嫌いだった人でも熱中して読める一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。