首都圏新築マンション発売28%も急減…買われないのに価格は高騰維持の異常事態

●この記事のポイント
・首都圏の新築マンション発売戸数が28%減と急落し、価格高騰のまま販売が細る“異常事態”が進行。建築費高騰や供給不足で価格は下がらず、販売だけが減る構造が鮮明になっている。
・東京23区では平均1.5億円超の高値でも富裕層需要が強く、実需層は市場から離脱。初月契約率は低下し、中古住宅やリフォーム市場へのシフトが加速するなど、住宅市場の二極化が進む。
・転売規制や投機需要の後退が進む中、市場は実需中心に移行。ただし供給不足や建築費の高さから価格の大幅下落は見込みにくく、首都圏マンションは“高値維持×販売減少”の時代に突入している。
10月の首都圏新築マンション発売戸数が、前年同月比28%減という大幅な落ち込みを記録した。不動産経済研究所が11月20日に発表したデータによれば、発売戸数の減少は一時的な変動というより、数年にわたって進んできた「高価格×低供給」という市場構造が、いよいよ限界に達しつつあることを示唆している。
一方で、東京23区の新築マンション平均価格は1億5313万円(18%上昇)と過去最高水準に近い高値を維持したままだ。つまり、「価格が上がり、販売は減る」という通常とは逆の現象が進行しているのである。
この異常事態は、今後の首都圏住宅市場にどのような影響をもたらすのか。価格の推移、販売数、デベロッパーの動き、首都圏以外の市場との比較、さらには周辺産業の行方まで視野に入れ、全体像を丁寧に解きほぐしていきたい。
●目次
- 高価格なのに供給が減る“逆転現象”はなぜ起きるのか
- 価格が1.5億円でも買い手は存在する
- 初月契約率は60%台に低下
- 首都圏以外との比較
- 市場は実需中心へだが、価格下落には直結せず
- 高値維持が最有力、部分的な調整の可能性も
高価格なのに供給が減る“逆転現象”はなぜ起きるのか
まず押さえるべきは、発売戸数の減少が「売れなくて供給を縮小した」わけではなく、デベロッパー側が採算性の悪化を恐れて販売を先送りしているという点だ。
背景には複数の要因が積み上がっている。
●建築費の急騰
●人件費の高騰
●土地仕入れ価格の高止まり
●投機的需要の後退
●富裕層と一般所得層の価格乖離の拡大
つまり、“作りにくく、売りにくい市場”になっているのである。
あるデベロッパー関係者は、「強気の価格で売り出さないと利益が出ないが、値付けを強気にすると買い手がつかない」と語る。デベロッパー各社は、高価格を維持するために供給数を調整する“選択と集中”を迫られている。
価格が1.5億円でも買い手は存在する
販売数が減っているにもかかわらず、価格が高止まりしている理由は明確だ。富裕層と高所得層の購買意欲が依然として強いことである。
湾岸エリアや都心部のタワーマンションは、
・国内富裕層
・外資系幹部
・法人向け転勤住宅
・相続対策資産
・インバウンド投資
など、多様な層から安定した需要がある。
こうした層は、金利上昇や物価高騰の影響を受けにくい。結果として、一部の限定された購買者層が価格を引き上げ、一般の実需層は市場から排除されているという構図が生まれている。
初月契約率は60%台に低下
新築市場の“体温”を測る指標として重要なのが初月契約率だ。70%が「好不調の分水嶺」とされるが、直近は60%台前半にまで低下している。
これは、
・投機的購入の後退
・価格の過度な高騰
・慎重な比較検討
・所得の伸び悩み
などが影響したものだ。
かつての「発売即完売」という過熱感は薄れ、販売期間は長期化。半年〜1年かけてじっくりと売るケースが増えている。
「現在の市場で目立つのは“供給ショック”です。建築費と人件費がかつてないほど上がり、デベロッパーは売り出し価格を下げられない。それにもかかわらず実需は価格についてこられないため、『価格は高いが売れ行きは鈍い』という矛盾が発生しているのです。
販売戸数の減少は、価格下落の前兆ではありません。むしろ逆で、デベロッパーが利益率を守るために供給を絞っている状態です。当面、価格は高止まりしたまま、販売数だけが細っていく局面が続くと見ています」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)
首都圏以外との比較
首都圏以外の地域と比較すると、首都圏の異常さは際立つ。
●関西圏
平均価格は6000〜7000万円台。上昇局面ではあるが、首都圏のように1億円を超えるケースは限定的だ。
●名古屋圏
平均価格は5000万円台半ば。地域経済が安定しているため堅調だが、価格高騰は比較的穏やか。
●地方中核都市
札幌・福岡・仙台などは移住者増加や外国資本流入で高騰気味だが、平均価格は5000〜8000万円台が中心。首都圏とは2〜3倍の開きがある。
この対比を踏まえると、東京23区の価格1.5億円という水準がいかに突出しているかが理解できる。
「全国と比べると、東京23区の価格の上がり方は完全に別次元です。関西や名古屋では所得と価格のバランスがまだ成立していますが、東京は所得の伸びが鈍い一方で価格だけが極端に上がっている。
その背景には、富裕層マネーの集中と、構造的な供給不足があります。投機的な需要が減っても、富裕層と外資の需要が残っているため、価格は下がりにくい。短期的な調整はあっても、下落トレンドが続く可能性は高くありません。むしろ、一般層が新築から完全に離れ、中古や郊外へのシフトが加速する“居住の二極化”が強まると見ています」(同)
市場は実需中心へだが、価格下落には直結せず
不動産協会が公表した「購入後1年間の転売規制指針」は、短期転売目的の買い手を減らす効果がある。ただし、これは価格の引き下げにはつながりにくい。
なぜなら、供給不足、建築費高騰、高所得層の堅調な需要、という3つが重なり、“価格を押し下げる要因がほとんど存在しない”からだ。むしろその影響は、即完売物件の減少、販売期間の長期化、投機需要より実需中心への回帰など、需給バランスの正常化に作用する。
新築が買えない層は、中古マンションに向かう。すでに中古市場では、中心部の中古、築浅物件、リフォーム済み物件などが高騰し、価格上昇が続いている。
これは、リフォーム・リノベーション産業や中古流通業界を活性化させる。一方で、賃貸市場も家賃上昇圧力が強まるなど、都市生活全体に影響が波及しつつある。
「新築価格が一般層の手に届かなくなると、中古市場に大きな波が押し寄せます。今起きているのは、『新築が買えない → 中古へ流れる → 中古価格も上がる』という連鎖的な高騰です。
加えて、リフォーム市場や仲介事業が活性化し、住宅関連産業はむしろ拡大している。しかしこれは“健全な成長”ではなく、新築が買えない社会構造の歪みの裏返しです。少子化で住宅需要が減るという一般論とは対照的に、都市部ではむしろ住宅不足が加速しています。この二極化は、今後10年の住宅市場の最重要テーマになるでしょう」(同)
高値維持が最有力、部分的な調整の可能性も
今後の動向として短期〜中期の価格見通しは、以下3つのシナリオが中心となる。
① 高値維持(最有力)
供給減・建築費高騰・富裕層需要の集中により、価格は当面高止まり。
② 部分的な調整(可能性あり)
初月契約率の低下が続けば、都心以外の物件や駅距離のある物件は価格見直しが進む。
③ 局所的バブル崩壊(低確率)
急激な金利上昇が起きた場合のみ可能性はあるが、現状は極めて限定的。
首都圏マンション市場は、いま「価格は下がらず、販売数だけが減る」という未経験の局面に入りつつある。
●建築費は下がらない
●供給は細る一方
●富裕層需要は強い
●投機筋は減っても価格は落ちない
●中古市場が高騰し周辺産業が拡大
●都市生活にまで影響が波及
つまり、価格は高止まりしたまま、購入できる層が二極化し、都市構造そのものに変化を促すフェーズに突入したのだ。
2020年代後半の首都圏マンション市場は、単なる住宅価格の問題ではなく、「都市にどう住むか」という社会的テーマを突きつけているといえるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











