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通信市場の金融シフトが本格化…au「マネ活2.0」で現金等の特典ばら撒く理由

2025.11.26 2025.11.27 12:49 企業
通信市場の金融シフトが本格化…au「マネ活2.0」で現金等の特典ばら撒く理由の画像1
「auバリューリンク マネ活2」公式サイトより

●この記事のポイント
・KDDIの「マネ活2」は通信と金融を融合した新型プランで、預金・カード利用を通じて解約率の低下と非通信収益の拡大を狙う施策である。
・競合他社と比べ、KDDIは経済圏の“金融シナジー”で優位にあり、通信市場の頭打ちを金融で補う戦略を進める。
・通信料金の値上げ余地は小さく、今後の競争は経済圏のロックインが中心になる。KDDIは通信企業から“生活・金融インフラ企業”への変貌を加速させていく。

 KDDIが2025年12月に投入する新料金プラン「auバリューリンク マネ活2」は、単なる割引施策ではない。50万円預けると毎月500円、au PAYカードの利用で最大1650円の特典など、「通信×金融」を軸にした“経済圏型プラン”として位置づけられている。通信料の値下げ圧力が強まるなか、KDDIは金融・生活サービスとの連携を強めることで、新たな収益源と解約率の抑制を狙う。

 本稿では戦略コンサルタントの高野輝氏が、この新プランの狙いを多角的に分析し、競合他社との比較、経済圏競争の構造変化、そして今後の通信市場の展望まで読み解く。

●目次

KDDIの本当の狙いは通信事業の依存度を下げるための“時間稼ぎ”?

 携帯大手3社はいずれも共通して、「通信料収入が原則として成長しない市場」に向き合っている。

 背景は3つ。
・総務省の値下げ圧力でARPU(ユーザー当たりの平均収益)が低下
・楽天モバイルの価格破壊で競争激化
・国民の可処分所得が伸びず、通信費の上限が固定化

 実際、KDDIの2024年度ARPUは横ばいで、5年前比で緩やかに減少している。通信市場の“限界”は、KDDI自身も決算説明で認めるところだ。

 KDDIは近年、通信以外の売上が急拡大しており、2023年度には非通信領域の売上が過去最大(約2.5兆円)となった。

 特に金融は高い伸びが続き、
 ・auじぶん銀行:預金残高5兆円超
 ・au PAY:発行者数はPayPay・d払い・楽天ペイに次ぐ規模
 このように経済圏としての地位を固めつつある。

 新プランの「50万円預けると毎月500円」は、まさに銀行サービスを通信と接続する施策であり、KDDI経済圏の“入口”として設計されている。

「マネ活2」は、金融=キャッシュバック、通信=継続という構造を作り、“解約しにくい契約“を設計したプランだ。

 50万円預ける → 毎月500円還元 → 解約すると還元が止まる → 解約抑制に効く
 通信料支払いにau PAYカード利用 → 最大1650円還元 → 同様に継続インセンティブ

 携帯契約を銀行・カード契約と“複層的に結びつける”ことで、一度入ったユーザーの離脱ハードルは大きく高まる。KDDIが狙うのは、単なる通信契約ではなく、「金融シナジーで離れないユーザー」なのだ。

競合比較:KDDIはなぜ「金融重視」で勝負するのか

■ドコモ:経済圏の王者は「決済」中心
 dポイント:会員1億人超
 d払い:キャッシュレス決済でトップ級
 金融:dカードは強いが銀行・証券の機能は限定的
ドコモはポイント・決済を軸に強い存在感を示すが、銀行・保険を網羅するKDDIほどフルスタックではない。

■ソフトバンク:金融は弱く、PayPay依存
 経済圏の中心は「PayPay」一本
 LINEヤフーとZホールディングスの統合でサービス統合は進むが、金融はPayPay証券程度
 銀行(PayPay銀行)は保有するが、ポイント還元モデルは弱い
ソフトバンクの強みは「PayPayの加盟店基盤」であり、金融×通信の一体設計は弱い。

■KDDIは「銀行×カード×保険」をフルセットで保有
 他キャリアにないKDDIの一体的な強みは以下のようになる。
 銀行 auじぶん銀行(預金残高の成長が著しい)
 保険 au損保
 カード au PAYカード(勢いが強い)
 ウォレット au PAY

 総合的にみて、金融経済圏を“通信の延長”として最も進化させられるのはKDDIであるようにみえる。今回の新プランは、その構造をフルに活かした“本気の金融連携”だといえる。

経済圏の競争は「ポイント→預金・投資」へとステージが変わった

 これまでキャリア各社は、ポイント付与やスマホ決済で経済圏の強化を図ってきた。しかし近年は、ユーザーの「可処分所得が伸びない」中で、ポイントよりも“確実なキャッシュバック”の価値が高まっている。

 楽天:預金でポイント倍率アップ → 解約率低下に成功
 au:残高50万円以上で毎月500円 → 年6000円相当の“実利”
 イオン:WAONと銀行連携で顧客維持
 楽天モバイルの「預金残高・証券残高を通信契約に紐づけた施策」が一定の成果を上げたことも、KDDIの動きを後押ししている。

 マネ活2の構造を見ると、攻めより守りの施策だ。つまり、通信契約を長期化し、収益の安定性を上げるための設計になっている。

 ポイント施策は、ユーザーの利用状況で大きく変わるため、収益の予測は難しい。一方、「預金残高-linked施策」は、銀行業の金利差(利ざや)を活用するため、予測しやすく安定している。

 KDDIは「経済圏=銀行と通信の融合」と捉えており、このモデルは他社より一歩先を行く。

解約率と市場構造:KDDIは低い解約率を維持できるか

■キャリア各社の解約率(2025年6月)
 KDDI:1.27%
 ドコモ:0.69%(業界最低)
 ソフトバンク:1.29%
 楽天モバイル:1.74%
KDDIはこれまで、ドコモより少し高いが安定した解約率を保ってきた。

 通信事業は設備投資が巨額で固定費も大きい。新規獲得よりも、既存ユーザーに長く契約してもらうほうが、遥かに収益性が高い。KDDIの狙いは、解約の“心理的コスト”を上げることにある。

 預金しているから動けない
 カード特典があるから解約できない
 au経済圏の商品をまとめて使っているから乗り換えに不便
こうした“経済的ロックイン”を構築できれば、解約率に大きく効いてくる。

 楽天銀行×楽天モバイルの連携施策は、銀行の口座利用増、楽天証券の積立投資増、モバイル解約率の低下に直結した。KDDIの「マネ活2」は、同じ構造をより通信寄りに最適化したものだ。

他メディアが触れない「KDDIが金融に本気な本当の理由」

 ここからは、一般報道ではあまり語られない視点を示す。

①金融サービスは“通信の低成長”を補う唯一の巨大市場

 通信市場は成熟したが、金融市場は巨大で、なお伸びしろがある。特にKDDIが狙うのは、投資・資産形成の拡大。

 日本の家計金融総資産は2230兆円。このうち、銀行預金が50%以上を占め、運用されていない。KDDIはこの巨大市場の一部を取りに行こうとしている。通信料金の値下げ分を、金融収益が補う形だ。

②「家計の金融動線」を握ると、生活導線も一体化する

 家計の中で、お金の流れを握る企業は最も強い。

  銀行 → 決済 → カード → 証券 → 保険

 この動線を押さえた企業は、顧客の生活サービスを支配できる。KDDIの狙いは、通信契約を入口に、家計全体を掌握する“生活IP企業”になることである。

③通信市場の本当の変化は「土管化」ではない

 一般論として、通信キャリアは“土管化する”と言われるが、これは半分正しいが半分誤解だ。正しくは、「通信単独では、ブランド力が維持できなくなる」という意味だ。

 金融・生活サービスを抱えたキャリアだけが、ブランドとしての強靭さを維持できる。KDDIはその“非・土管化戦略”のために金融を重視している。

今後の通信料の展望:料金は上がらず、囲い込み戦争は続く

 総務省の政策が大きく転換しない限り、通信料金が上がる可能性は極めて低い。競争軸は価格でなく、付随サービス(金融・ポイント・生活支援)に移る。

 KDDIの金融収益は、5年間で1.5倍以上に成長した。この流れを加速させれば、将来的に通信会社の決算書は、銀行・保険会社に似た構造になる可能性すらある。

■予測される業界再編
 ドコモ:金融領域の拡大が不可避
 ソフトバンク:PayPay中心の統合モデルを深化
 KDDI:通信×銀行の2枚看板で安定性強化
 楽天:経済圏の再構築(銀行・証券への依存がさらに増加)

 通信業界は、もはや“回線勝負”ではない。金融と経済圏シナジーをどう構築するかが、未来の競争軸となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)