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木下隆之「クルマ激辛定食」

BMW「3シリーズ」のリバース・アシスト機能が感動的…直近50m分の“バック自動運転”

文=木下隆之/レーシングドライバー
BMW「3シリーズ」のリバース・アシスト機能が感動的…直近50m分の“バック自動運転”の画像1BMW新型「3シリーズ」

 新型BMW「3シリーズ」がデビューした。試乗会に参加して、数々の魅力に溢れていることを確認したものの、そのなかで思わず手を打ったのが「リバース・アシスト」という機能だ。別名「後退時ステアリングアシスト機能」である。

 読んで字のごとく、バックでもステアリング操作を代行してくれる機能だ。アクセルワークも任せていい。つまり“バックの自動運転”である。

 用途を想像すると、ワクワクする。

 住宅街の小道に紛れ込んだとしよう。だがその先は行き止まりだった。さあ、どうする。バックで元来た道を戻るしか手がない。

 また、左右が切り立った山道に紛れ込んだとしよう。だが、その先が崖崩れで通行止め。バックで回避するしか許された方法はない。

 さらに、片側一車線の小道で対向車と出会ったとする。相手は運転のおぼつかないビギナードライバーだった。後退して退避路まで戻らなければならない。

BMW「3シリーズ」のリバース・アシスト機能が感動的…直近50m分の“バック自動運転”の画像2BMW新型「3シリーズ」の運転席

 そういったシチュエーションで威力を発揮するのが「リバース・アシスト」である。

 前進で来られたからといって、後進で戻れるとは限らない。理屈では可能なのだが、バックでのドライビングは意外と難しいものだからだ。

 だが、これなら助かる。クルマが、その直前まで走行して来た軌跡を覚えてくれている。時速35キロメートル以下で走行した道筋を、直近の50メートルまで記憶しているから、スイッチ操作ひとつで、ハンドルから手を離してもゆるゆると後退してくれるというのだ。

 操作は簡単だ。わざわざ記憶させる必要もない。つねに50メートル分は上書き保存されているから、緊急時でも「あれ、記憶スイッチを押し忘れた」なんてことはない。

 バックギアに入れて、モニター上の「リバース・アシスト」スイッチを押すだけだ。すると、ドライバーがブレーキペダルから足を離した瞬間に、小刻みにステアリング操作しながら後退する。

 その精度たるや秀逸で、前進では進入するのもためらうような小道でも、まったく乱れることなく後退してくれる。自動車教習所の難所「クランク」程度の小道でもまったく問題ない。左右に壁が迫っていても問題にはならない。切り立った崖でさえ、意に介さず後退を続けてくれるだろう。数センチの乱れもないのだ。つまり、進入して来られた道ならば、なんなく帰還することができるわけで、人間よりはるかに上手だ。

安全機能も装備

BMW「3シリーズ」のリバース・アシスト機能が感動的…直近50m分の“バック自動運転”の画像3「リバース・アシスト」の画面

 この機能は、新型「8シリーズ」から採用され、新型「3シリーズ」にも搭載されている。両モデルとも、サイズが大幅なワイドになった。

 たとえば、新型「3シリーズ」は、全長が70ミリメートルも伸びた。全幅も25ミリメートル拡大。前後のタイヤ間の距離、つまりホイールベースは40ミリメートル延長。左右のタイヤ間の距離、つまりトレッドはフロントが43ミリメートル、リアが21ミリメートル広がっている。

「道の狭い日本では、ちょっと大きすぎないか」

 そんな意見も耳にする。この質問をBMWの担当者にぶつけたら、返って来た回答は以下のようなものだった。

「確かに、おっしゃるとおり車幅が1800ミリメートルを超えると、すれ違い等で緊張を強いられるかもしれません。だからこそ、このリバース・アシストが役立つと思いますよ」

 なるほどである。

 操作には習熟が必要だ。スイッチひとつでオーケーという手軽さだが、頻繁に使うものではない。対向車との出会い頭で、速やかな操作でバックができるかといったら慣れが必要だ。だが、慌てなければスムーズにこなせる。

 壁が迫っている場合には、すべてをクルマに任せるのに勇気がいる。だが、それも慣れの問題だろう。

 後退中にも、「クロス・トラフィック・ウォーニング」が作動してくれるから安心である。前後の衝突安全機能は作動するから、自動運転のようにクルマ任せで問題はない。

 そもそも、BMWのドライビングアシストには定評がある。レーンキープやクルーズコントロールは、クルマや壁といった周囲の障害物を正確に認識する。それに対する回避行動も俊敏で正しい。駐車スペースに自動で誘導する「リモート・コントロール・パーキング」の精度も高い。クルマから降りた後、リモートスイッチひとつで無人のマイカーを車庫に戻すこともできるのがBMWだ。「リバース・アシスト」などは実は、それほど難易度の高いシステムではないのである。 

 もし狭い道で、僕がBMWと正面で向き合ったら、ちょっとほっとするだろう。そして頭を下げてニコッとする。するとBMWオーナーは華麗な「リバース・アシスト」さばきで道を譲ってくれるはずだからだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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