新型BMW「3シリーズ」がデビューした。試乗会に参加して、数々の魅力に溢れていることを確認したものの、そのなかで思わず手を打ったのが「リバース・アシスト」という機能だ。別名「後退時ステアリングアシスト機能」である。
読んで字のごとく、バックでもステアリング操作を代行してくれる機能だ。アクセルワークも任せていい。つまり“バックの自動運転”である。
用途を想像すると、ワクワクする。
住宅街の小道に紛れ込んだとしよう。だがその先は行き止まりだった。さあ、どうする。バックで元来た道を戻るしか手がない。
また、左右が切り立った山道に紛れ込んだとしよう。だが、その先が崖崩れで通行止め。バックで回避するしか許された方法はない。
さらに、片側一車線の小道で対向車と出会ったとする。相手は運転のおぼつかないビギナードライバーだった。後退して退避路まで戻らなければならない。
そういったシチュエーションで威力を発揮するのが「リバース・アシスト」である。
前進で来られたからといって、後進で戻れるとは限らない。理屈では可能なのだが、バックでのドライビングは意外と難しいものだからだ。
だが、これなら助かる。クルマが、その直前まで走行して来た軌跡を覚えてくれている。時速35キロメートル以下で走行した道筋を、直近の50メートルまで記憶しているから、スイッチ操作ひとつで、ハンドルから手を離してもゆるゆると後退してくれるというのだ。
操作は簡単だ。わざわざ記憶させる必要もない。つねに50メートル分は上書き保存されているから、緊急時でも「あれ、記憶スイッチを押し忘れた」なんてことはない。
バックギアに入れて、モニター上の「リバース・アシスト」スイッチを押すだけだ。すると、ドライバーがブレーキペダルから足を離した瞬間に、小刻みにステアリング操作しながら後退する。
その精度たるや秀逸で、前進では進入するのもためらうような小道でも、まったく乱れることなく後退してくれる。自動車教習所の難所「クランク」程度の小道でもまったく問題ない。左右に壁が迫っていても問題にはならない。切り立った崖でさえ、意に介さず後退を続けてくれるだろう。数センチの乱れもないのだ。つまり、進入して来られた道ならば、なんなく帰還することができるわけで、人間よりはるかに上手だ。
安全機能も装備
この機能は、新型「8シリーズ」から採用され、新型「3シリーズ」にも搭載されている。両モデルとも、サイズが大幅なワイドになった。
たとえば、新型「3シリーズ」は、全長が70ミリメートルも伸びた。全幅も25ミリメートル拡大。前後のタイヤ間の距離、つまりホイールベースは40ミリメートル延長。左右のタイヤ間の距離、つまりトレッドはフロントが43ミリメートル、リアが21ミリメートル広がっている。
「道の狭い日本では、ちょっと大きすぎないか」
そんな意見も耳にする。この質問をBMWの担当者にぶつけたら、返って来た回答は以下のようなものだった。
「確かに、おっしゃるとおり車幅が1800ミリメートルを超えると、すれ違い等で緊張を強いられるかもしれません。だからこそ、このリバース・アシストが役立つと思いますよ」
なるほどである。
操作には習熟が必要だ。スイッチひとつでオーケーという手軽さだが、頻繁に使うものではない。対向車との出会い頭で、速やかな操作でバックができるかといったら慣れが必要だ。だが、慌てなければスムーズにこなせる。
壁が迫っている場合には、すべてをクルマに任せるのに勇気がいる。だが、それも慣れの問題だろう。
後退中にも、「クロス・トラフィック・ウォーニング」が作動してくれるから安心である。前後の衝突安全機能は作動するから、自動運転のようにクルマ任せで問題はない。
そもそも、BMWのドライビングアシストには定評がある。レーンキープやクルーズコントロールは、クルマや壁といった周囲の障害物を正確に認識する。それに対する回避行動も俊敏で正しい。駐車スペースに自動で誘導する「リモート・コントロール・パーキング」の精度も高い。クルマから降りた後、リモートスイッチひとつで無人のマイカーを車庫に戻すこともできるのがBMWだ。「リバース・アシスト」などは実は、それほど難易度の高いシステムではないのである。
もし狭い道で、僕がBMWと正面で向き合ったら、ちょっとほっとするだろう。そして頭を下げてニコッとする。するとBMWオーナーは華麗な「リバース・アシスト」さばきで道を譲ってくれるはずだからだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)