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実は20年間負け組だった!? 元祖エクセレントカンパニーの再建策

パナソニック、社長自虐発言の真相と“普通の会社”という目標

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 「まるで中村天皇。会長になっても人事権を握り、おとなしい大坪社長の頭越しに、院政を敷くように経営を支配し続けた」
 「アメリカかぶれの市場原理主義者」
 「まっとうな意見を言っても気に障ったら左遷する独裁者なので、怖くてモノが言えない」
 「お気に召さない記事を書いた新聞記者を呼びつけて怒鳴り上げ、その新聞に出していたパナソニックの広告を差し止めた」
 「リストラで人を切って切って切りまくった挙げ句、多額のリストラ費用をツケ回した」
 「日本人学生の新卒採用を4割カットして、海外採用を5割増にした。日本人の社員はもういらないらしい」
 「三洋電機の買収に約1兆円も使ったが、リチウムイオン電池のビジネスはまったく見込み違いだった。のれん代の償却で、財務が回復不可能なぐらい傷ついている」
 「プラズマテレビにこだわって液晶テレビに集中できず、次世代の有機ELテレビにもつなげられなかった。それなのに尼崎第3工場のプラズマディスプレイ製造設備に2100億円も過剰投資して、後で減損処理する羽目に陥った」
 「R&D予算を削ったために携帯電話事業が出遅れて、スマホの波に乗れずにシュリンクしてしまった」

 社長就任時に「破壊と創造」を掲げながらも、やったのは破壊だけという「壊し屋」のイメージもついて回る。社長時代に出版された『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(日本経済新聞社/森一夫)というヨイショ本や、昨年出版した自著『これからのリーダーに知っておいてほしいこと』(PHP研究所/中村邦夫)のタイトルにひっかけて、「中村邦夫『パナソニック』を壊した男」「これからのリーダーに悪い見本として知っておいてほしいこと」と皮肉られる。社長時代に業績をV字回復させたヒーローがこうまで言いたい放題に言われるかと、ちょっと気の毒になる。

 だが、個人攻撃的な悪評は横に置いて「経営の失敗」とされているものを細かく見ていくと、すべて中村氏の責任とは言い切れないものも含まれている。

●低成長、低収益体質の改善を怠ったのは誰か?

 津賀社長は10月31日の記者会見で、「20年前から低成長、低収益の状態が続いている」と述べた。確かに売上高は、86年11月期の4兆5749億円から92年3月期の7兆4499億円までは62%の増収だったが、その後は一進一退で、07年3月期のピーク9兆1081億円でも92年3月期と比較した増収率は22%にとどまる。最終利益は80年11月期から92年3月期まで連続で1000億円を超えていたが(決算期変更の87年3月期を除く)、その後の20年に1000億円を超えた年度は4回しかなく、最終赤字は6回もある。低成長、低収益体質が、「中村以前」からの構造的な問題として横たわっている。

 津賀社長はその根本的な要因として、「ビジネスの中心が『家電・国内』のままだったこと」を挙げている。R&D投資が成果を生まないのも、構造改革の効果が一時的なのもそのためで、ともに利益低下という副作用ばかりが出てしまった。そこへ追い打ちをかけたのが近年のデジタル化への積極投資で、投資判断に問題があって思ったほどのリターンを稼げずに終わり、環境の変化にも対応できなかったと総括している。三洋電機を買収した投資判断やその買収金額についても、同じことが言えるだろう。

 つまり、中村氏の戦略の誤りも当然そこには含まれるのだが、低成長、低収益を脱することができなかった過去20年間のパナソニックの経営戦略全体に、現在の「普通の会社ではない」「負け組」の苦境を招いた芽があったのだと、津賀社長は言っている。

 それは、病気の人に例えるとわかりやすい。20年来の持病があり、食事療法や運動などでの根本的な体質改善が必要だった患者の「松下さん」に対し、新任の主治医の中村医師は対症療法でとりあえず患者を元気にしようと、病巣の破壊力が大きい「新薬」を注射した。それは業績V字回復の劇的な効果を発揮したものの副作用もまた激しく、その後の中村医師の診断ミス、治療法のミスも加わって、かえって患者の病状を悪化させてしまった。今、「普通ではない」リスキーな状態の松下さんは病院の集中治療室(ICU)に入っている。最終赤字幅が圧縮し、病状が峠を越して一般病棟に移れる見通しは、来期に先送りになっている。

 怒った松下さんのファミリーからは、「変な薬を注射して、診断ミス、治療ミスを犯した中村というヤブ医者が悪い」と非難が集中しているが、低成長、低収益が続いて投資から思うようにリターンが得られない持病を20年も患ってきた松下さんに、根本的な体質改善を施すことができなかった中村氏以前の主治医(=経営者)たちに、責任はなかったと言い切れるだろうか?

●パナソニックは集中治療室から出られるか?

 忠臣蔵がそうであるように、日本人は一人の悪役にすべての矛盾の責任を押しつける単純明快な“物語”を好む。闇将軍と呼ばれた田中角栄氏や、最近では小泉純一郎氏、竹中平蔵氏、渡邉恒雄氏、堀江貴文氏などを“諸悪の根源”と見なし、「あいつが日本をダメにした」という言説がまかり通っている。「中村邦夫氏がパナソニックをダメにした」と盛んに言われているのも、その延長線上にあるような気がしてならない。企業の経営とは、そんな単純なものではないはずだ。

BusinessJournal編集部

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