結局、取り締まる側は「なるべく楽に作業が行える場所」で摘発を行い、ドライバーは安全を脅かしたり交通流を乱すか否かを考えることもなく、交差点の角でも見通しの悪いカーブの途中でもお構いなく駐車する。そして、いざ摘発されたドライバーは、「運が悪かった。今度は(捕まらないように)気をつけよう」という程度にしか考えないため、順法意識が芽生えるはずもないのだ。
かくして、広範囲を一律に駐車禁止とした上で、その中の摘発しやすいごく一部の駐車違反を取り締まるという行為は、道路交通法の最大目的である「交通の安全」にも「交通の円滑」にも反する行政の不作為といわれても仕方がないものなのだ。そしてここでは、同時にこうしたやり方が実は“小さな自動車に優しくない仕組み”であるということを問題点として採り上げたい。
路上駐車をすれば、どのみち駐車違反。それではと駐車場に入れれば、大きい自動車も小さい自動車も料金は同じ。こうなれば、もはやそうした地域では「積極的に小さい自動車を選ぶメリット」が失われてしまう。ヨーロッパで「コンパクトなハッチバックカーこそが主役」という状況がずっと続いているのは、都市部の路肩でようやく見つけた小さな空間に駐車することが可能か否かという点が、日常の重要な実用性能の一部であることも大きな一因なのだ。
日本でも、安全性や交通の円滑性に配慮の上で「小さな車両に限って駐車が可能」といった「特区」を制定すれば、それは都市部での小さな自動車の強力な普及推進策となるはずだ。さらに、「小さな車両」を「全長3.4m、全幅1.48m以内」と置き換えれば、それはそっくりそのまま現在の軽自動車にとって固有のアドバンテージとなり得るのだ。
人々に積極的に小さな自動車を選択してもらう動機付けには、小さいことのメリットを、より明確に実感させることが必要だ。そのためには、道路を広範囲に駐車禁止するような施策を見直して駐車特区を設けるといった、これまでにない大胆な提案も不可欠なのではないだろうか
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本来はそれこそが最大の特徴であるはずの「小さいこと」はまったくセールスポイントにならず、その販売の勢いは単純に低税額頼みへと陥っているのが軽自動車の現状だ。それを「小さいからこそ買ってもらえる自動車」に変貌させるためには、メーカーにもそんな未来を見据えたアイディアや努力が必要であるはずだ。
(文=河村康彦/モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員)