【続報】
「そらみたことか」「(本格参入を延期する)発表が遅すぎる」――。
携帯電話事業に携わる人々は、10月からの楽天ケータイが「試験運用」にとどまることに、冷ややかな視線を投げかける。
「無理に運用を開始すれば、みずほ銀行の二の舞になっていた」(メガキャリアの首脳)
2002年、みずほフィナンシャルグループは、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行を再編、個人及び中小企業を担当する、みずほ銀行と大企業向けの、みずほコーポレート銀行に2分割され、営業を開始した。
その、みずほ銀行の開業初日、2500億円を投じた基幹システムが、立ち上げと同時に大規模なシステム障害を起こした。金融史上、類を見ないシステム障害となった。日本の金融機関の自動引き落としをはじめとする決済システムは、絶対にミスをしてはいけないという大前提に立っている。これが崩れた。
楽天・楽天モバイルが10月1日に携帯電話事業への本格参入を強行していれば通信史上、ワーストの事態に陥っていたかもしれない。「楽天ケータイがつながらず、大混乱」といった事態だけは回避できたわけで、総務省は胸をなでおろしたことだろう。
三木谷社長、本格営業開始の時期を明言せず
楽天は9月6日、東京・二子玉川の楽天本社で三木谷浩史会長兼社長が会見を開き、「10月に予定していた携帯電話事業への本格参入を見送り、地域や契約者数を限定した試験サービスを10月1日から始める」と発表した。基地局の設置が遅れたためで、通信の安定性などを確認した上で本格的な営業に移行する、とした。
しかし、本格参入には基地局数の確保と安定的な稼働が必要不可欠だ。三木谷氏は本格参入の具体的な時期については「1カ月後かもしれないし、3カ月後かもしれない」と述べるにとどめ、いつになるかは明言しなかった。
焦点となっている基地局の整備だが、完了したのは9月6日の現在で586局。計画(2020年3月までに東京や大阪などで3432カ所)の、およそ6分の1(17%)にとどまる。
「楽天誤算 携帯競争冷や水」(「日経」8月7日付朝刊)などと全国紙は報じているが、見通しが甘かっただけだ。きちんと見通しを立てて、それでも予想外の“事件”が起こり、本格営業が遅れたのなら「誤算」だが、社会インフラを担う企業としての覚悟・真剣味に欠けた結果である。みずほの失敗の本質も社会インフラを担うという意識の欠如にあったが、楽天の企業としての信頼は失われたといった厳しい意見が出ている。
通信業界の幹部はこう指摘する。
「2020年3月末までに、携帯電話事業の認可を総務省から受けた際の整備計画(3432の基地局を設置)が達成できなければ、電波法に基づく携帯事業者としての認可が取り消される。2020年春の本格サービスの提供が不可能になる恐れだってある」
「ダメだとなれば、また計画の修正を行うつもりなのかもしれないが、そうなれば通信インフラそのものの信頼が失墜する。既存の携帯電話会社にとっても、ゆゆしきことだ」(携帯電話業界に詳しいアナリスト)
楽天モバイル1社だけの問題でなくなるのだ。菅義偉官房長官は9月6日の記者会見で「料金の低廉化やサービスの多様化への国民の期待をしっかり受け止め、早期に本格サービスを開始してほしい」とクギを刺した。
楽天の株価急落
9月6日の東京株式市場。楽天の株価は前日比で一時、6.9%(72円)安の966円まで急落した。終値は984円(54円安)。楽天株は6月末をピークに下落傾向が続き、8月29日には一時、925円の安値を付けていた。
業績への影響を懸念する売りが出た模様だ。「基地局の整備の遅れを取り戻すため出費(設備投資)が膨らむ」という連想だろう。楽天は通信網の構築にクラウドを使った仮想化と呼ぶ技術を世界で初めて通信ネットワークに全面採用することによって設備投資を初期コストで3割(運用コストで4割)削減し、安い通信料金を実施するとアピールしてきた。しかし、このセールスポイントに投資家が疑念を抱き始めたということかもしれない。