導入の推進役を担ったのは、シェフパティシエールである田中千尋氏の夫で同社専務の水野貴之氏だ。
「本店では日によってコーヒー豆の種類を変えており、たとえばグアテマラミラドール、マンデリンブルーリントンなど6種類の豆を日替わりで提供します。どんな豆を使っているかの現物を示し、豆の特徴も記した『見せる化』にもこだわりました」(水野氏)
リニューアルへの取り組みは、地元テレビ局の情報番組でも紹介され、1年たった現在はお客の評判も上々だという。13年に創業50周年を迎えたのを機に、祖業であるコーヒーの見直しを検討し始めた。社長の田中寿夫氏に打診しながら、水野氏夫婦を中心にスタッフがどんな手法にするかを試行錯誤していったという。
1963年に創業した「コーヒータナカ」(当時の店名)が、自家焙煎に乗り出したのは数年後。「地元の老舗ロースターに支援いただき、焙煎機も購入して焙煎を学び、何度も失敗する試行錯誤を繰り返しながら、タナカ独自の味をつくり出していきました」(寿夫氏)。
当時は田中氏が弟と2人で焙煎から淹れ方までこだわって提供した。サイフォン式を扱った時期もあったが、やがてネルドリップ式に切り替え、長年にわたりネルドリップでコーヒーを淹れていた。それを今回、サードウェーブコーヒーなど最新の状況を見据えて変えたのだ。リニューアルまで1年近くを要したという。
今回のリニューアル後、新たなスイーツも開発した。実際に店で使用するコーヒー豆を超微粒粉砕したモカソフトやコーヒーゼリー、コーヒーのスムージーといった商品だ。
「モカソフトやコーヒーゼリーは東京・日本橋や軽井沢などに店舗を持つミカドコーヒーさんが有名ですが、当社も新たな人気メニューにしたいと思い、開発しました」(千尋氏)
何もかも変えるのではなく、ブランド資産を上乗せする
家業から企業に成長した中小企業では、創業者と後継者の確執が起きるケースも多い。個々の事情が異なるので一概に論じることはできないが、何を変えて、何を変えないかの視点=ブランドでいえば「不易流行」も大切だろう。
カフェタナカでいえば、父の時代の「ご近所のコーヒー店」という軸足は変えておらず、コーヒーカップも長年、昔ながらの厚手のものを使っていた。フードメニューでは、人気の鉄板スパゲティのほか、昭和時代からのメニューであるタマゴサンドイッチにも根強いファンがいる。それに加えて、近年はガレット(フランス・ブルターニュ地方のクレープ)なども提供する。
『吉田基準』 独自の経営と高品質のものづくりを実現するために、外部の職人さんを含めた「吉田カバンの人々」が、どのような考えにもとづいて、どういったやりかたで仕事をすすめているのか、トップ自ら披露していきます。ものづくりに携わる人だけでなく、仕事の成果や質を高めたいビジネスパーソン必携の一冊です。