余談ですが昨年4月1日、改正商標法が施行され、商標権はこれまで文字や図形、記号など形あるものに限られていましたが、改正により音や色彩、動きなどが加わりました。
閑話休題、「王ろじ」は「登録4188285」で1997年2月13日に出願され、1998年9月18日に登録されていました。王ろじは店名を商標により守っているのです。商標登録されているというのは王ろじのブランド力を強化しているといえます。「王ろじ」の価値を高めています。
店内には、「好店三年 客をかえず 好客三年 店をかえず 為王ろじ 柴田錬三郎」と書かれた額が飾られていました。
柴田錬三郎は大正から昭和を生きた小説家・ノンフィクション作家で、代表作に『イエスの裔』『眠狂四郎』『柴錬水滸伝』『徳川太平記』などがある文豪です。その柴田錬三郎がかつて王ろじに通いつめたともいわれており、その面影を忍ばせています。
この格言から、王ろじの商売に対する考え方を理解することができます。客商売の本質を示しており、その精神を同店は体現しています。またしても、食べる前から繁盛店としての一端を感じることができたのです。
注文してから10分ほどで「とんかつセット」が運ばれてきました。
茶色に揚げられたとんかつが目の前に現れました。キャベツが脇に添えられ、ライス、とん汁、王ろじ漬がセットとなっているオーソドックスなとんかつです。揚げたての衣はサクサクしていて、豚肉は肉汁がたっぷりです。脂っこくない脂身に甘みや旨みが凝縮されています。
さて、同店に行列ができる理由はどこにあるのか。まずはとんかつなどの料理がおいしいことが挙げられます。ただ、確かにおいしいのですが、筆者は「すごくおいしい」とは思いませんでした。やはり、おいしさにプラスされた付加価値が、同店に行列をつくりだしていると考えられます。
先に挙げたように、大正十年創業という老舗のブランド力が価値を押し上げていると考えられます。商標登録による権威づけもブランド力を高めています。魂のこもった挨拶と清掃が心地よい空間を演出し、おいしさを引き立てています。このように、総合力の高さが行列をつくりだしている要因といえ、「客商売はかくあるべし」を体現している店です。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。