昨年10月の消費増税に伴い軽減税率が導入されたが、イートインとテイクアウトで税率が変わることで、マクドナルドとケンタッキーフライドチキンのように、どちらも同じ販売価格にしている店は、ある顧客行動に大きな不安を抱えている。なぜ同一価格にしたのかは、2019年10月7日付本連載記事で詳しく説明しているので省くが、店側はイートイン客が多くなればなるほど納める税金が多くなり、テイクアウト客が多くなればなるほど納める税金が少なくなるということだ。
言い換えれば、顧客が少しでも国の税収を上げたいと思えばイートインを選べばよいし、増税なのに実質値下げをしてくれた店側を応援しようと思えばテイクアウトを選べばいい。店側が不安なのは、「テイクアウトなのにイートインと意思表示をする顧客が増えないか」ということだ。こんなケースが考えられる。イートインと宣言した顧客が会計後に、
・マイバッグにハンバーガーを入れて持ち帰る
・席が空かないから持ち帰る
・急用ができたから持ち帰る
店からすると「最初からそう言ってくれれば、税金が2%少なくて済んだのに」という気持ちになるだろう。マイバックの場合、「テイクアウトの場合は袋に入れ、イートインの場合はトレイにすることで区別をしているから、それは困る」と店側は思うかもしれないが、どんぶりに入ったラーメンを持ち帰るわけではないので、法的にもそれは問題にならない。逆に顧客側からすれば、「環境のため、資源節約のためにマイバックを持参しているんだから、2%引きといったサービスしてくれればいいじゃないか」という考え方もある。
こうした顧客の行動が意図的であろうとなかろうと、店側は対応せざるを得ないだろう。会計後の顧客の行動には税法上、なんの制約もない。
実は店側がひそかに期待しているのは、この逆の顧客行動である。つまり「イートインなのにテイクアウト宣言をしてくれる」ことだ。「テイクアウトだと袋に入れられるから、袋を持って席に座るのは気が引ける」ということなら、袋ではなくトレイに載せてもらえばよい。「うちの店では、テイクアウトのお客様にはトレイはお出しできません」ということなら、顧客側からみれば同じ値段なのだから「コーヒーだけイートインにするから、トレイに載せてください。ハンバーガーはマイバックに入れるから袋は入りません」と言えば、すべてトレイに載せてくれるだろう。ほかの客にしても、イートインもテイクアウトも同じ値段なのだから、袋に入れて座って食べても気にしないだろう。
年内には値上げ?
前回連載記事でも述べたが、イートインかテイクアウトかは、顧客がどこで食べるかではなく、どちらの商品を選ぶかで決まる。どんぶりに入ったラーメンをテイクアウトとするのは無理があるが、持ち帰ることができる商品の場合、顧客が「テイクアウト用ハンバーガー」を選ぶか「イートイン用のハンバーガー」を選ぶかの問題であり、選んだ商品をどこで食べても問題ない。ましてや「持って帰るつもりが、席が空いていたので座って食べることにしました」という顧客を責めることなど誰もできない。
結果的にテイクアウトが増えると、マクドナルドやケンタッキーのようにテイクアウトでもイートインでも商品価格が同じ店の顧客は、得をするかもしれない。それは、値上げが遅くなる可能性があるからだ。同一価格にすることで実質的に商品を値下げしている店の場合、値下げだけでなく増税により全体的にコストアップになっている。客数が大幅に増えれば問題ないが、いずれ値上げをしなければ利益がかなり減少する。
筆者は、マクドナルドやケンタッキーの値上げ時期は、早くて2020年7月、遅くても10月ではないかと見ている。キャッシュレス還元が終わり、東京五輪が始まることで外国人観光客が増える7月からか、五輪景気で儲けた後の10月からか、利益を減らすことができない企業にとって、それ以上引き延ばすことができるだろうか。引き延ばすことができるとすれば、同一価格にしたことで客数が増えるか、想定以上にテイクアウト客が増えたときではないだろうか。
何よりも簡単なのは、イートインも8%にすることだ。マイナンバーカード還元や景気対策といっては湯水のごとく税金が使われる。それなら、イートインとテイクアウトの区別をなくせばいい。もっといえば、税率をすべて8%にすればいいと思う。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)