医者の息子が「ボンボン生活」捨て通販雑誌の一カメラマンに…なぜ五輪公式の世界一流に?
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
日本有数のフォトエージェンシー、アフロの創業社長・青木紘二氏は、今でも第一線のカメラマンとして現場に出向く。広告写真も撮れば、スポーツ報道写真も撮影している。今回はカメラマンとしての青木氏に焦点を当てて、プロのこだわりを紹介してみたい。
今季もFISワールドカップで優勝争いを繰り広げるノルディック複合の渡部暁斗選手が銀メダルに輝いた2014年のソチ冬季五輪で、青木氏は冒頭の写真を撮影した。ひとつは、優勝したドイツのエリック・フレンツェル選手がゴール直前で金メダルを確信して上げた両手の間に、渡部選手が迫る写真。もうひとつは、ゴールした上位選手が軒並み倒れ込む写真だ。
「フレンツェル選手と2人でレースを引っ張った渡部選手が迫るシーンを押さえつつ、一方で、体力ギリギリまで挑む過酷な競技の側面を表現しました」(青木氏)
「クライアントの意向に沿う」と「もっといい写真を撮る」の両立
現役カメラマンの視点で、青木氏が社員にこう助言する。
「『カメラマンは頭を2つに分けなさい』と話します。ひとつは、クライアントの意向に沿った写真をきちんと撮ること。もうひとつは、もっといい写真を撮りたいというアマチュア精神を忘れるな、ということです」(同)
青木氏は、やりたくない仕事もあると明かす。そのような場合、本連載前回記事で紹介した「楽しく仕事をがんばろう」という理念と、現実との折り合いをどうつけるのだろうか。
「やりたくない仕事をいい加減に行えば、お客さんは見抜きますし、次の仕事の依頼はなくなります。でもその仕事を一生懸命にやると、どこか楽しい部分が出てくる。社員には『10のうち1つでも楽しければ、それは楽しい仕事だよ』と伝えています」(同)
青木氏でも、広告主の意向に必死で応えて撮影しても採用されないこともある。
「大手広告代理店から依頼された、ある巨大企業の経営トップ直々の仕事がありました。私が撮影した写真の選択は経営者自身が行うという条件で、そのひとつ、体操の跳馬の写真は『スーパーマンのように両手を広げた空中シーンがお気に入り』とのことでした」(同)
そこで引退直後の元五輪代表の男性選手に演じてもらい、スタジオで撮影したという。