こうした消費者のニーズに応えた商品・サービスの提供がモスバーガーの業績を支えている。同店のハンバーガーは注文を受けてから調理されており、手間と時間がかかっている。そのため値段は競合のハンバーガー店と比較して決して安くはないが、それでも他店では食べられないハンバーガーを求めて多くの消費者がモスを訪れている。
手間を惜しまず消費者のニーズに応えるサービス
櫻田会長の著書『いい仕事をしたいなら、家族を巻き込みなさい!』(中経出版)に興味深い逸話がある。
1978年の出来事だ。当時、櫻田氏はモスバーガーの1号店の店長をしていた。ある時、その1号店の向かいにマクドナルドが突如出店してきた。まさに黒船襲来である。その頃のモスバーガーは、外食産業の中では非常に小さな存在であった。世界に名を馳せていたマクドナルドに太刀打ちできるはずもないと誰もが思っていた。近くの商店街の人たちは「絶対モスバーガーが潰れると思っていた」と言っていたそうだ。しかし蓋を開けてみると、マクドナルドが開店した金曜日の売り上げは23万7000円で平日の新記録を更新し、翌土曜日は37万6000円、日曜日は約50万円にもなったという。地域の消費者はモスを支持したのだ。
規模は小さくとも、着実な経営を行うことで巨人マクドナルドすら払いのけてきたのがモスバーガーだ。当時から地域に密着した経営を行い、地域の消費者がモスに求めるものは何かを追求してきた。地域住民と対話を重ね、関係性を強化してきた。決して効率の良い経営ではないのかもしれない。しかし、効率重視では見えないものがあることも事実である。モスバーガーは、それを証明している。櫻田氏はビジネス系情報誌「THE21」(PHP研究所/2015年12月号)のなかで、「私たちは創業以来、とにかく『面倒なこと』ばかりしてきました」と述べている。
モスバーガーは、消費者のニーズに応えた商品を開発してきた。おいしい商品を開発するには、厳選された食材が必要だ。そのため、モスバーガーは97年から国内の生産農家と協力体制を築いてきた。06年にはモスバーガーの契約生産者である「野菜くらぶ」と共同出資し「農業生産法人サングレイス」を設立し、生鮮野菜の安定供給を実現した。