大塚家具は6月3日、2016年12月期の業績予想についてリーマン・ショックの影響を受けた09年を上回る15億円強という過去最大の営業赤字に陥ると発表した。今回はその原因がどこにあるのか、どうすれば復活できるのかを考えてみたい。
中価格帯中心への路線変更
大塚久美子社長と実父で前会長の大塚勝久氏の対立は各メディアで詳報されているが、久美子社長が自らの方針として2015年2月25日に「3カ年(15~17年度)の中期経営計画」として掲げたのが「中価格帯中心への路線変更」だ。同年3月の同社第44回定時株主総会向けの資料にその骨子が書かれている。
まず、時代背景と顧客のニーズとして、同社が大型店舗をたて続けに出店した1990年代は、家具を「住宅という箱の“備品”としてのインテリア」「空箱を満たすための備品一式」として「まとめ買い」する需要があったとしている。それが、新築需要減少によって2000年代には、「衣食とともに、“ライフスタイル”を構成する要素としてのインテリア」として「より自分らしいライフスタイルに向けて、少しずつ買い足すもの」と「単品買い需要」に変化していると分析している。その市場環境分析自体は間違っていないだろう。
「買い増し・単品需要対応」と自社体制の整合性
だが、こうした需要への対応はまさにニトリの戦略だが、ニトリと大塚家具とでは決定的に店舗形態とその立地が異なる。そもそも大塚家具の大型店舗戦略は、80年代まで家具業界が小商圏で地元の婚礼需要を中心として小規模店舗で展開していたのに対し、市場縮小・婚姻率低下に対応して生き残りを図るためだったといえよう。「そこに行けば多くの商品のなかから選べ、すべてが揃う」という価値提供で、大型店舗に広域から客を集めた。
それに対し、ニトリは気軽に足を運べるような立地に、顧客自らが見て回るのにちょうど良い規模の店舗を展開している。
大塚家具も東京・新宿など、有明の本社ショールームに比べれば好立地のコンパクトな店舗で気軽に単品買いできるインテリア用品などの取り扱いを増やしている。しかし、本当に中価格帯で「買い増し・単品需要」を狙うには、気軽に行けるようにする、来店頻度を上げるということが課題になる。しかし、店舗網を根本的に変革することは容易ではない。
「路線変更」には時間がかかる
いわゆるマーケティングの「4P」で考えるなら、Product(商品・品揃え)は高級品から中級品に変更、Price(価格)はそれにともなって中価格に変更した。だが、売上を維持するなら客数を増やさなければならないが、Place(販路・立地)はそのままだ。顧客側はまとめ買いのためなら遠い店舗にまで足を運ぶが、単品を買うためだけに遠くまで行きたくない。
つまり、「中価格帯中心への路線変更」のうち、手を入れやすいProduct(商品・品揃え)とPrice(価格)は計画変更されているかもしれないが、本来それと連動し整合しなければならないPlace(販路・立地)はそのままなのが大きな問題だ。しかし、広すぎる商圏を顧客が来店しやすいように縮小して店舗数を増し再配置するということは、かなり難易度が高く、実行するにも時間がかかるだろう。
顧客フォローこそが真の解決策だ
「自分らしいライフスタイルに向けて、少しずつ買い足す単品需要」を取り込むためには、ニトリと同じ土俵に登らないことが肝要だ。久美子社長は従来のマンツーマンの接客を過剰として否定し、顧客が自ら見て回れるスタイルに改めた。
では、営業担当者は何をやればいいのか。それは「既存顧客のフォロー」だ。たとえば、主婦が買い物のついでにキッチン用品を買うようなニトリの店舗展開と品揃えは大塚家具には真似できないし、「中価格帯狙い」なら真似すべきではない。それならば、顧客に来店を促す必要がある。
たとえば、購入した家具のメンテナンスや椅子の座面張り替えなどの案内をする一方、買い増し需要はないかお伺いをする。「3カ年の中期経営計画」の市場分析にあるとおり、「まとめ買い」をしなくなっている今日、ライフスタイルやライフステージの変化によって、顧客に「買い増し需要」も存在するはずだ。また、大塚家具は家具の「下取りサービス」も発表しているので、買い換えの促進も可能だろう。
ところが、ここに大きな問題がある。大塚家具は既存顧客のフォローを個々の営業担当者に任せており、アプローチをするもしないも、担当者個人の考え方次第なのだ。大塚家具で家具を購入した経験のある顧客に、DMや電話その他の手段で購入後になんらかのアプローチがあったかを聞くと、かなりのバラツキがある。それは、同社の全社統一施策として計画的に徹底して行われていないからにほかならない。同社の復活のカギは、まずはここにあると考えられる。
(文=金森努/金森マーケティング事務所取締役、マーケティングコンサルタント)