食べログで評価「無限大」の鰻屋?半年先まで予約満席、「情報による美味しさの鰻」論
15席の末席に加えていただくべく、予約を入れるために、もう一度電話をすることにした。予約日は来年2017年3月1日となった。スケジュールの書き込みにも思わず力が入る。かくして、土用の丑の日を直前に、7カ月後にしか食べられないうなぎへの妄想と期待はマックスに膨れ上がった。
「おいしさ」の分類
龍谷大学農学部教授の伏木亨(ふしきとおる)さんによれば、人間が享受する「おいしさ」は4つに分類できるという。伏木氏の著書『人間は脳で食べている』(ちくま新書)によれば、ひとつ目は、「生理的なおいしさ」。必要なもの、体が欲しているものをおいしいと感じる本能的な働きである。空腹、喉の渇き、疲労、暑い寒い、そういう生理的な状態にぴったり合うものを「おいしい」と感じる。ちなみに、動物にも同じような機能はある。
2つ目は、「食文化のおいしさ」。「食べ慣れた味」や「おふくろの味」が一番と感じるのが、このおいしさだ。地域や民族、食生活を営むなかで記憶に刷り込まれ、継承されてきた「おいしさ」ともいえる。
3つ目は、「やみつきを誘発するおいしさ」。脳内の「報酬系」という神経回路で発生する。人間も動物も、快感を強く感じる食べ物にはやみつきになる。人間の場合、油脂、甘味、アミノ酸などの旨味が大好きで、生命維持につながる、脂質、糖質、たんぱく質の存在を示す信号として、この味に反応するのだという。その意味では、ひとつ目の「生理的なおいしさ」にも通じるところがあるが、現代人の食生活においては、むしろ甘いチョコレートやこってりしたラーメンの味は、忘れられない味、すなわち「やみつきのおいしさ」になっている。
「情報によるおいしさ」
そして、最後に4つ目が「情報によるおいしさ」。伏木さんは、この「情報によるおいしさ」が私たちの食生活に与える影響の大きさに着目している。
マーケティングもPRも、この4つ目の「情報によるおいしさ」戦略に関わる仕事といえる。私の推察だが、シズル感たっぷりのビールのCMをラットに見せ続けたとして、果たしてラットのビール量が増えるだろうか。答えは否。「情報によるおいしさ」は、人間だけが享受できる「おいしさ」なのだ。アフリカのライオンたちが「エチオピア産のシマウマは肉が柔らかくて旨いんだよねー」なんて情報交換はしないだろう。