膨大なデータを活用
スーパーホテル全店舗では計約2万件のアンケートが毎月収集され、うち約7000件が感謝や賞賛の内容である。そのなかから抽出した接遇事例を約100件データベースに登録し、全従業員が閲覧できる仕組みを整備している。この蓄積をどれだけ応用できるかは従業員の質に左右されるが、スーパーホテルは独自の人材像を定めている。「自律型感動人間」である。これは、感謝の心をもって宿泊客を感動させるサービスを自分で考えて提供できる人間という意味だ。
「採用では、本社直轄の7店舗も、ベンチャー支配人制度による委託運営99店舗も、感動のできる人、夢を持っている人を選びます。夢を持っている人は自律的に考えることができるからです」(同)
アルバイトを含めた人材育成では、内面に焦点を当てた施策を実施している。たとえば、各店舗では毎日朝礼時に「Faith(フェイス)」と題する理念・行動基準カードの輪読を、アルバイトも参加して行っている。フェイスには「経営理念」「環境理念」「行動基準」「働く仲間への約束」「サービススタンダード」などが記載され、毎回担当者を決めて、フェイスの感想やフェイスに従った行動の成果などを発表し、支配人が講評を述べている。社員は毎週月曜日に本社に集まり、山本梁介会長、山村孝雄社長が理念や創業の想いを語っている。
この朝礼には1時間もかけるから、朝礼というよりも研修である。しかも、たんなる唱和ではなく業務に直結させた考察によって、従業員の血となり肉となってゆくのだ。
対話を重視した企業風土にも着目したい。期末・期初や上半期・下半期などの単位でフィードバック面接を実施する企業は珍しくないが、スーパーホテルは毎月1回、全従業員が所属長と1対1で30分以上の対話を行っているのだ。この場では、仕事の悩み、人事異動の希望、家庭の悩みなどテーマを問わず打ち明けられ、上下関係を融和させている。
「上司が聴き役に徹し、本人の強みを自信に変え、モチベーションを向上させています」(星山氏)
燃えるようなモチベーションを従業員にどうやって持続させるか。業種にかかわらず企業経営の要諦はそこにいきつくが、スーパーホテルは重層的にモチベーションの持続を仕組んでいる。従業員を資本と見なす経営を人本主義と呼ぶことがあるが、そのモデルケースといってもよいだろう。