電通の企業文化を体現する石井社長、社員過労死連発への責任感ゼロ…頑なに社内組織優先
自社社員の死にも拱手傍観
石井直氏は電通の第12代社長。1973年に上智大学から新卒入社している。社長就任は2011年、同社としては営業畑出身の初めての社長である。
社長就任の年次から、一連の「電通ブラック企業問題」に対する石井氏の経営責任は免れない。14年に関西支社(大阪市)が、15年に東京本社が、労使協定で定めた残業時間の上限を超える違法な長時間労働を社員にさせたとして、労基署から是正勧告を受けている。
当局から正式な勧告、つまり違法状態の指摘をたて続けに受けていた状況のなかで、石井社長は2件の社員過労死事件を起こしてしまった。石井氏が自ら率いる会社の長時間残業体質に「気がつかなかった」ということはあり得ないから、経営者として言語同断の現状放置だったといわざるを得ない。
新卒プロパーの生え抜き社長である石井氏は、自分が属してきた、そして今は率いている組織にしみこんだ「アンチ・コンプライアンス体質」に気がついていなかっただけでなく、自らが骨の髄までその体質に浸ってきてしまっていると私には見える。
電通では実は1991年にも、入社2年目の大嶋一郎さん(当時24歳)が長時間労働を苦に自殺をしている。大嶋さんは長時間労働に加えて、上司からパワハラまがいの行為にも遭っていたといい、うつ病に罹患してしまっていた。
この事件は「電通事件」と呼ばれ最高裁判所まで争われ、2000年に過労死として労災認定された。つまり会社をあげての大騒ぎとなった事件だった。石井氏は事件当時の1991年は40歳、それなりに責任あるポストにいたはずだ。
社員が死ぬ、犠牲になるというのは、会社を経営するうえで最大の失敗である。そもそも、会社を経営するのはなんのためか、誰のためかということに帰着する。もっとも重要なステークホルダーである社員を繰り返し犠牲にする企業というのは最悪で、社会的にその存在価値はない。そして、それを指揮してきた経営者には最悪の評価しか与えられない。
企業風土と戦わないサラリーマン経営者は、自らが抵抗勢力
電通は12月9日に至り、「取り組んだら放すな」「殺されても放すな」などの言葉が記されている社員の心得、「鬼十則」を社員手帳に掲載するのを取りやめると発表した。同時に各部署での有給休暇の取得率50%以上の達成を目指すとした。「遅きに失した」ことではある。