青学の陸上・原監督、脱「上下関係」管理術…なぜ20~30代前半の能力を最大限発揮?
過去の成功体験からの解放
両氏とも、監督就任当初は選手としての実績がないのに大丈夫かと不安視する声があったが、名選手ではなかったからこそ、それまでの業界の型にとらわれない独自のマネジメント手法で選手を育成・活用し、結果を出すことができた。名選手の場合、どうしても若かりし頃の自分を投影し、同じようなトレーニングや戦い方を採り入れる傾向がある。
この2人の監督の場合は、そういった名選手としての成功体験がないからこそ、過去の自分ではなく、今、目の前にいる選手の目線や気持ちに立つと同時に、新しいトレーニング方法や戦術も積極的に採り入れることができた。
これは企業でもよく見受けられる現象だ。プレーヤーとして卓越した成果を出してきた営業担当者がマネージャーになった際に、自分と同じような営業スタイルをメンバーに強要し、結果が出ずに苦労してしまう構図と似ている。誰しも、過去の勝ちパターンがある場合にそのやり方を頼りたくなるのは当然の心理だろう。ただしその場合、隠れた前提条件を意識しなければならない。過去に成功した場合と今を比較し、「顧客ニーズはどうか?」「競合環境はどうか?」「テクノロジーは?」「法規制は?」など、ビジネスを取り巻く外部環境を冷静に見た上で、勝ちパターンをどこまで信用して使っていくかを判断しなければならない。
原監督のフラットな人材育成
では、そろそろ原監督のマネジメント術を見ていこう。原監督がこれまでの駅伝監督と異なるのは、今の若者の性格や価値観を踏まえつつ、監督が担う役割、選手が果たす役割を大きく変えたことにある。これまでは、というより、原監督以外の大学では今でも大半がそうであるが、日常のトレーニング方法や、門限などの日常生活を送る上での細かいルールも監督が決めて指示し、選手はそれに従うというやり方が一般的だ。
原監督のスタイルは、それとはかなり対極的だ。選手が自分の頭で考え、その上で自己管理することを徹底している。まず、基本的に自分がどのレベルの走力を目指すか、年単位・月単位の目標を選手自身に考えさせ、発表させる。それに対して、他の選手が「お前ならもっと高い目標を目指せるんじゃないか?」と意見を言い合い、各自の目標が決まる。