青学の陸上・原監督、脱「上下関係」管理術…なぜ20~30代前半の能力を最大限発揮?
目標を設定した後のトレーニングについてもそうだ。1週間のうち、1日がオフで6日は練習だが、このうち半分の3日間は全体練習として原監督がメニューを決め、残り半分の3日間は、各自が設定した目標や出場予定のレース、コンディションに合わせてトレーニングを決めていく。全体練習は、能力に応じた設定タイムで走るといったベーシックなものが多いため、各自で実施する3日間の練習が、その選手の成長を大きく左右するそうだ。
もちろん、原監督が何もしないわけではない。選手から相談を受ければしっかりと応える。ただし、ここでの原監督らしいポイントは、選手が自分なりに考えた案を持ってきた上で相談に乗るという点だ。例えば、ある選手が「足が痛いです」と言ってきただけでは、原監督の答えは、「それで?」だ。「足が痛いです」は相談ではなく、単なる報告に過ぎない。「足が痛く、受診をしてきましたが、治るまでに1カ月程度かかりそうです。治る期間を少しでも早めるためにAという治療をしつつ、また、その間にできるトレーニングとしてBとCをしようと考えているのですが、監督これでいいでしょうか?」と言うのが、原監督が選手に求める相談だ。
原監督がこのように、従来の上下関係で選手を管理することをせず、選手自身で考えさせることを重視するのは、それが勝ち続ける組織を実現する上で近道となるからだ。監督の指示に従わせるやり方は一見すると効率が良さそうだが、選手の考える力が育たない。また、その監督がいなくなった瞬間にチームが機能しなくなり、勝ち続けられる強い組織にならない。さらに、そもそも今の20代は、明確な上下関係よりも、フラットなコミュニケーションに慣れており、その状態が本人たちのモチベーションを高め、ポテンシャルを最大化することにつながる。
これは、企業で働いている20~30代前半の若者との関わり方においても同様だろう。先が読めず正解のないこの時代には、年齢や経験に関係なく、早い時期から自分の頭で考えさせ、答えを探し出させる姿勢を育むことが必要だ。監督に当たる経営者やマネージャーは、組織が何を目指すか大きな方向性は示しつつも、それを実現するための具体的な方法については若者に委ね、あとは要所要所でのサポートをするような関係が有効だろう。
栗山監督の手腕については、次回の後編で詳述するとしよう。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員)