日産に課せられた新たな役割
日産自動車の“顔”が交代した。カルロス・ゴーン氏に代わって、日産を引っ張っていくのは、社長に就任した西川廣人氏である。横浜の日産グローバル本社で4月3日に開かれた社長就任会見の席上、「これまであまり申し上げてこなかったことですが」と、前置きして、西川氏は次のように語った。
「アライアンスの三番目のパートナーとして三菱自動車が入りました。アライアンスが進化、成長していくなかで、日産はその中核として、アライアンスを引っ張る存在でありたい」
西川氏は05年より購買部門副社長を務め、北米、欧州、中国などで事業軸の責任者を経験した。14年チーフ・コンペティティブ・オフィサーに就任し、研究・開発、生産、SCM、購買、TCSX(トータル・カスタマー・サティスファクション・ファンクション)を担当した。ゴーン氏が取締役会長に退くのを受けて、日産の社長兼最高経営責任者(CEO)を務めることになったのだ。
ゴーン氏の経営戦略を確実に実行し、結果を出してきた西川氏は、実務家タイプといえる。しぶとく、ときにしつこいほどの熱心さで物事を進める。ブレない経営者といっていい。
1000万台の罠
では、ゴーン氏はなぜ今回、西川氏にバトンタッチしたのか。
「私どもには、世界トップ3に入る実力があります」
ゴーン氏は2016年5月12日に開かれた三菱自動車との資本業務提携に関する共同記者会見の席上、いつも以上に自信に満ちた強い調子でそう語った。日産が三菱自動車への34%の出資を完了させ、同社を傘下に収めたことにより、16年のルノー・日産アライアンスの販売台数は996万台と限りなく1000万台に近づいた。内訳は、日産556万台、ルノー318万台、三菱自動車93万台だ。
つまり、世界で販売される車の9台に1台以上がルノー・日産アライアンスの車という計算になる。トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)の上位3位グループに匹敵する規模だ。
ただし、ビッグ3の一角に食い込んだとはいえ、“1000万台の壁”はとてつもなく厚い。というのは、自動車業界には販売台数が1000万台に近づくと、経営がつまずくというジンクスがある。GMは小型車軽視が致命傷となり、08年、1000万台を目前につまずいた。トヨタもまた09年、1000万台を目前にして品質問題に見舞われ、窮地に陥った。VWは15年上半期、トヨタを抜いて世界一の座を手に入れた途端、排ガス不正が発覚した。