この“1000万台の壁”を、ゴーン氏は十分に意識している。ゴーン氏が日産の代表取締役会長に退いたのは、1000万台規模の自動車グループの舵取りの困難さを深く認識しているからにほかならない。つまり、日産トップの権限を西川氏に委譲して負担を減らし、自らはルノー・日産・三菱自動車のアライアンス経営に力を注ごうとしているのだ。
「アライアンスの戦略面および事業上の進化により多くの時間と労力をかけ、アライアンスの持つ規模による競争優位性をパートナー各社に享受させることができる」
こうゴーン氏は述べ、アライアンスにより注力する考えを示したのだ。
日産はアライアンスを牽引できるか
ルノー・日産・三菱自動車の巨大アライアンスは、果たしてうまくいくのか。その意味で、西川氏に課せられた責務は重いといわなければならない。なぜなら、アライアンスにおける日産の役割は、これまでと大きく変わるからだ。
振り返ってみれば、1999年に2兆円もの有利子負債を抱えた日産は、ルノーに救済されるかたちで経営の立て直しを図った。大赤字だった日産は、アライアンスの“お荷物”でしかなかった。
ところが、18年後の今日、日産の役割は様変わりした。日産は3社のなかで販売台数がもっとも多い。世界展開のエリアも広い。いまやアライアンスのなかで“兄貴分”だ。
「自分たちがアライアンスを牽引していくんだという自覚がないと、1000万台規模の図体をさらに発展、進化させることは難しいと思います。これまでは、文字通りゴーンさんの牽引力でやってきたわけですが、ここからは自覚をもって日産の実力を上げ、自分たちが引っ張っていかないと、アライアンスの発展はない」
西川氏は、このように“覚悟”を語った。まず、そのために成すべきは、国内市場のパイが増えないなかで、販売台数を伸ばし、足元をしっかり固めることである。
「私の最初のミッションは、日産をスローダウンさせないこと。継続的に、着実に進化させ、成長させることが一番です」(西川氏)
日産の16年度の国内における登録車販売台数は前年度11.1%増の41万7404台である。ブランド別順位で、3年ぶりにホンダを抜いて2位に浮上した。牽引役はミニバン「セレナ」とシリーズ式ハイブリッド車「ノートeパワー」だ。
「私が意識しているのは、時代が激変するなかで“変化”こそチャンスだということです。今後、新技術を商品に入れ、新しいブランドイメージの構築を強力に進めていきたい」(同)