三菱自動車の再生
日産はさしあたって、経営傘下に入った三菱自動車との協業関係をどのように築き、いかにシナジー効果を生み出し、三菱自動車再生の道をつけるのか。
日産は、三菱自動車の立て直しにあたり、日産副社長で技術顧問の山下光彦氏を副社長として、日産のチーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)で日産の世界6地域を統括するトレバー・マン氏を最高執行責任者(COO)として、さらに、川口均氏、軽部博氏を取締役として送り込んだ。
三菱自動車で陣頭指揮を執る山下氏が注力したのは、不正の「再発防止策の実施」と「業績向上活動」の推進を柱とする社内改革だ。例えば、業界初となる走行試験データの自動計測システムの導入や技術者向け法規教育の制度化などを行った。
「業績向上活動」でもっとも期待されるのは、共同購買、工場共用、共通のプラットフォーム、技術の共有、成熟市場および新興市場の協業、物流の統合――などによるシナジー効果の最大化である。
「提携による初年度のシナジー効果は、三菱自動車が250億円、日産は240億円を見込んでいる。来年度には、営業利益ベースで三菱自動車が400億円、日産は600億円相当の効果が得られるだろう」
これは、10月20日の三菱自動車との資本提携の記者会見の席上でのゴーン氏の言葉である。現にインドネシアの新工場で三菱自動車が生産する新型ミニバンを、OEM(相手先のブランド生産)で日産に供給することが予定されている。また、タイで工場から販売店までの車の輸送を日産と三菱自動車の両社で統合するなど、東南アジアでの物流統合、輸送コストの削減への取り組みも進められている。
このほか、軽自動車の企画、開発、生産について、日産と三菱自動車のリソースや技術、ノウハウを最大限に活用する「NMKVモデル」は存続の方針だ。その際、これまで三菱自動車が行っていた開発を日産が担い、生産については前回と同様に三菱自動車の水島製作所が行う。そして、18年に発売予定の軽は、これまで通りそれぞれのブランドで発売するという。
西川氏の使命
ゴーン氏は強烈なリーダーシップで日産の経営を立て直し、ルノーとともに類いまれなるアライアンスをつくりあげた。前述したように、そのゴーン氏の近くで15年にわたり一緒に仕事をしてきた西川氏は、ゴーン氏の経営スタイルやその強みは熟知している。
「ゴーン氏が築いたダイバーシティ(多様性)を引き継ぎ、ゆるぎない強みとして日産に植え付けていきたい。それが私の使命だろうと思っています」
こう西川氏は決意を語る。ダイバーシティは、企業の競争力を決定づける重要な経営戦略の一つだ。グローバル戦略、あるいは働き方改革において、多くの日本企業は、ダイバーシティの推進に取り組む。ダイバーシティの定着には、日産は一日の長がある。
西川氏はゴーン氏が築いた強みを引き継ぎつつ、日産の新たな“顔”として、いかに日産を進化させるのか。加えて、アライアンスの牽引役としての“顔”をどうつくっていくのか。西川氏の力量が問われるところだ。ゴーン氏のようにとはいわないまでも、リーダーとして“大化け”すれば、ルノー・日産・三菱自動車によるアライアンスは、ビッグ3の一角に確たる地位を占めることは間違いないだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)