新日鐵住金「国内の鋼材需要はせいぜい横ばい」 日本の鉄鋼は世界のトップを奪取できるか?
経営統合後初の中期経営計画(2013~15年度)に、君津製鉄所(千葉県君津市)の高炉1基の休止を盛り込んだ。君津には高炉が3基あり、このうち最も古い第3高炉を3年以内に休止する。高炉休止は20年ぶりとなる。
高炉の火を落としてしまったら次に火入れするときに莫大なカネがかかることから、どこも高炉の火を落とさない。20年以上にわたって連続操業する高炉もある。
3月末に予定していた和歌山製鉄所(和歌山市)の新高炉1基(新第2高炉)の稼動を当面見合わせる。旧新日本製鐵系の君津、名古屋製鉄所(愛知県東海市)、旧住友金属工業系の和歌山、鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市)の4製鉄所の生産ライン計14本も止める。
合併後に休止したラインは6本。今後3年間に止めるラインは、その2倍を超える。休止する高炉やラインの生産分はほかに振り替え、国内粗鋼生産能力は年間5000万トンを維持する。生産の集約と効率化で、年間2000億円以上のコスト削減につながるという。
中期計画には売上高や営業利益など、具体的な数値目標は盛り込まなかった。13年3月期見通しで1.4%にとどまっている売上高経常利益率を、3年以内に5%程度を最低目標とする。世界最大手のアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)や韓国ポスコに肩を並べ、将来的に10%を目指す方針が示された。
改革を急ぐのは、15年前後に中国や韓国で大型製鉄所が相次いで本格稼動するからだ。韓国ではポスコが今年9月、3基目の高炉を完成させ、粗鋼生産量は2400万トン体制となる。中国でも製鉄所の建設ラッシュが続く。中国大手の宝鋼集団は15年までに中国南部で大型の高炉を新規稼動させる。アジア全体では数年以内に粗鋼生産能力が1億トン前後も上積みされるとの試算がある。アジアの設備過剰は現在でも2億トンとされているから、市況はさらに悪化する。
世界鉄鋼協会の調査によると、12年(暦年)の世界の粗鋼生産量は前年比1.2%増の15億4780万トンとなり、3年連続で過去最高を記録した。シェアを伸ばしたのは中国で、同3.1%増の7億1650万トンと全体の46%を占める。日本は同0.3%減の1億720万トンと横ばい。価格競争では勝ち目がなくなっている。
新日鐵住金が強く意識しているのは、最新鋭の設備を誇る韓国ポスコだ。ポスコは1970年代初めに戦後賠償の一環として、旧新日鐵などから技術導入して発足した。韓国政府の後押しや、近年のウォン安をテコに粗鋼生産量で世界4位に浮上した。経営統合で世界6位から2位に再浮上した新日鐵住金と、東アジアの盟主の座を争っている。
新日鐵住金が攻めたくても攻められないのは、財務の弱さにある。有利子負債は2兆5562億円に上る。有利子負債が株主資本でどれたけカバーされているかを示すDEレシオ(負債資本倍率=有利子負債÷株主資本)は1.2倍。1倍以下が健全だから、これ以上の借金は難しい。
合併直後の12年10月、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は長期会社格付けをトリプルBに1段階引き下げた。投機的水準まで、あと2段階に迫ってきた。
足元は円安で輸出には追い風だが、新日鐵住金の株価は200円台に張り付いたままだ。韓国ポスコや中国勢を抑えて、攻めに出る道筋が見えないことが最大の理由だ。「15年までに世界最高水準の競争力を実現する」(友野社長)というトップの発言からすると、東アジアの盟主の座を韓国ポスコから奪還するために本格的な攻めに出るのは15年からのようだ。
(文=編集部)