三菱、伊藤忠の“2強時代”は来るのか
注目は伊藤忠商事である。伊藤忠初の「利益No.1」は16年3月期だけの“一日天下”に終わったが、さらなる成長を遂げ、再び三菱商事を抜けるのか。岡藤正広社長は中期経営計画の最終年度にあたる18年3月期に、公約通り4000億円の最高益に挑む。
「利益4000億円は(三菱商事との)商社2強時代にふさわしい水準だ」
5月2日に記者会見した岡藤社長は、自信たっぷりにこう語った。だが、18年3月期決算の最終利益で三菱商事を抜く蓋然性はまったくない。発表でも、三菱商事の4500億円に対して伊藤忠は4000億円だ。4500億円を目標とする三菱商事は98億円しか利益を増やしていない。対する伊藤忠は478億円利益を増やすとしている。
三井物産は139億円増やして3200億円を目標としているが、海外の投資事業の評価替えをするだけで、1000億円程度の利益が増えるとの試算もある。いわば“隠し球”を持っている状況だ。伊藤忠は三井物産に抜かれる可能性もある。
伊藤忠の17年3月期決算は、食料部門が牽引した。同部門の純利益は705億円と2.8倍に膨らんだ。1350億円を投じて13年に買収した果物事業のドールは、買収に見合った収益を上げられず、前期は200億円弱の減損損失を計上したが、83億円の黒字に回復した。
中国国有の複合企業、中国中信集団(CITICグループ)に6000億円出資しており、通年で連結対象にしたことで持ち分利益は225億円押し上げられた。ただし、本格的な協業はこれからだ。タイのチャロン・ポカパン(CP)の分を立て替えたこともあって、一時期は9000億円を伊藤忠が出資していたことを忘れてはいけない。
「流通再編の起爆剤になる」と鳴り物入りで経営統合したユニー・ファミリーマートホールディングスはどうか。ユニーのGMS(総合スーパー)は、中部地区に集中すればなんとか生き残れるとみられるが、問題はファミリーマートだ。コンビニが思ったほど稼げていないというのが現状だ。澤田貴司社長と伊藤忠から派遣された多数の人材がうまく噛み合っていないとの指摘もある。実際に澤田社長は、自分の判断で側近を採用している。
三菱商事はローソンを子会社にした。一方、伊藤忠はファミマの筆頭株主ではあるが、子会社化はしない方針だ。中国あるいはタイのパートナーに異変が起きたら、ファミマを売って損失を穴埋めする計算が働いているとみるアナリストもいる。
伊藤忠はCITICに6000億円出資した後、投資を抑え負債返済を優先した結果、ROEは15.3%と5社のなかで最も高い。
それでも、株価を見ると伊藤忠に対する市場の評価は高いとはいえない。予想PER(株価収益率)は6.48倍と5社のなかで最も低い。三菱商事のそれは8.09倍、三井物産は8.49倍だ(いずれも5月15日終値時点)。伊藤忠については、次の利益の牽引役が見えないことに、市場は物足りなさを感じているのだ。
伊藤忠は、「商社2強時代」を実現するために、もうひと踏ん張りが必要になる。
(文=編集部)