双日の株主総会が6月20日、午前10時から開かれた。参加者は昨年比88%減の355人。今年から株主向けの“お土産”を廃止したことが影響した。昨年までは焼き菓子を配っていた。株主から「参加者が少なくなったのはなぜか」という、皮肉交じりの質問が発せられ、佐藤洋二社長(総会後に会長)は「驚いている。(原因の)分析が必要だ」と答えた。
双日の総会は、東京都港区赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京で開催された。昨年は2771人が参加したため、シティホテルの会場が必要だったが、355人なら本社のホールでも間に合っただろう。鴻海精密工業の傘下に入って業績を急回復中のシャープは、今年からホテルでの株主総会をやめて本社開催に切り替えた。経費の削減にもなり、合理的な判断といえる。
双日の株主総会では「多くの株主が参加しやすいよう日時を考えてほしい」との要請が出た。昨年は6月16日と早めの開催だったが、今年は20日。同時刻に都内の別会場でNTTドコモやヤフーも総会を開いていた。
今年はお土産なしの流れが強まっている。三菱UFJフィナンシャル・グループ、東レなどもお土産を廃止した。
三菱UFJは、2016年までクッキーなど1000円相当の洋菓子を配っていた。16年は1万1000人が出席したが、6月29日に開催される今年の株主総会では出席人数にどう影響するのか、注目される。三菱UFJでも大幅減を予想しているが、9割近く少なくなるという想定はしていないだろう。
東レは、メガネふきや傘など自社製品をお土産として配ってきたが、6月27日開催の今年の株主総会から廃止する。その理由を「すべての株主に配当として還元したい」としている。建前としてはその通りだが、たとえ5000人が参加したとしても、費用は1000円×5000人で500万円だ。その程度の額をどうやって配当として還元するのだろうか。
テルモの株主総会も6月27日に開催される。これまで体温計など自社製品や菓子類の配布を実施してきたが今年は廃止し、その代わりに、2年前から始めた専門家による健康セミナーや血圧測定などの体験会を催すとしている。「お土産はやめるが、健康をプレゼントする」という前向きな対応だ。
お土産をケチると個人株主が離れる?
株主のなかには、お土産を受け取るとすぐに帰ってしまう、「お土産品目当て」の人も多数いる。また、一日に数カ所の株主総会を回ってお土産を獲得する“コレクター”も存在する。
しかし、お土産は個人株主を増やすため付けるようになったという、歴史的な経緯がある。「1000円程度のお土産を廃止したら、出席者が激減して社長が顔をしかめたので、翌年から元に戻した」という大手企業もある。
特殊な株主の、いやがらせに近い質問を経営者は嫌うが、参加者数が激減するのも内心では大きな気懸りなのだ。「盛大に、しかも平穏に株主総会が終わってくれるのがベスト」と本音で語る、有力財界人もいる。
上場企業の証券業務を代行する三菱UFJ信託銀行によれば、6月開催の株主総会の招集通知に「お土産の配布を予定していない」と記載した企業は257社で、前年に比べ62社増えたという。それでも、3月決算会社の7割以上が株主総会でなんらかのお土産を出しているというのが実情だ。
菓子メーカーの株主になっている老婦人は、「株主総会でもらえる製品の袋を楽しみにしている」と語る。
1000円をケチって、株主であると同時に商品のファンでもある客を失くしたりしたら、それこそ「あぶはちとらず」の結果に終わる。
(文=編集部)
【追記】
神戸製鋼所は6月21日、神戸市内で株主総会を開いた。17年3月期決算は2期連続の最終赤字を計上し、無配に転落したのだから、株主の関心は例年以上に高いはずなのに、出席した株主は394人。前年に比べて半減した。1000円程度の洋菓子がお土産として配られてきたが、今年は廃止した。株主からはお土産の復活を求める声が相次いだが、川崎博也会長兼社長は「お土産目的ではなく、会社の成長に期待して株主が質問したくなるような会社にしてきたい」と述べた。株主総会の場でお土産論争が繰り広げられるのは珍しいケースだ。お土産の廃止に関して川崎社長は「株主間の公平性の問題や、世間の趨勢を踏まえて判断した」と理解を求めた。業績悪化の陳謝とお土産を廃止したことへの弁明。これでは株主が喜んで参加したくなるような株主総会とはいえまい。