プロ野球審判員はなんでも知っている…1試合で数球は判定ミス、試合中に監督が采配を相談
投球の判定は、「人間が判定する以上、プロの審判でもミスはあります。どちらのチームに有利などの私情ではなく、瞬時の判断ミスです」と話す平林氏は、こう続ける。
「特に微妙なコースについては、1試合に数球は判定ミスがあるでしょう。ただし、プロである以上、緊迫した場面ほど正確性が求められます。試合終盤の8回や9回で、二死満塁・一打逆転の場面など、勝敗を左右するシーンでの誤審は大問題となります」(同)
一般に、審判員の技術向上の近道は「数多くの試合を担当すること」だといわれる。プロ野球の審判も、トップレベルの試合を担当することで経験値を積む。
「先発投手など、長いイニングを投げた『投手の代え時』は、球審が一番わかります。それまでに比べてボールの伸びやキレが落ちるのです。たとえ球速を計るスピードガンの数字が変わらなくても、マスク越しに判定していると感覚的にわかります」(同)
監督によっては球審に、「そろそろ代え時かね?」と相談する人もいるそうだ。その時は答えないが、投手を代えてうまくいった後に話しかけられれば、「あの交代は監督、正しかったですよ」と答えることもあるそうだ。
試合に対する、日米「意識」の違い
日米両国で審判員経験を持つ平林氏は、野球や試合に対する「日米の違い」にも詳しい。「米国がなんでも優れているわけではないが」と前置きし、次のように話す。
「勝ち負けにこだわり『勝利至上主義』の一面もある日本に比べて、米国は『マナー』の精神を重視します。大リーグの試合で『大きな得点差がついている時、勝っているチームはバントや盗塁をしない』のは、マナーに基づいています。日本の審判は、判定の正確性は高いですが、ゲームコントロールの視点では米国に一日の長があります」(同)
今年は野球ファンの間で論議を呼んだ、埼玉西武ライオンズのエース、菊池雄星投手の
二段モーション問題(日本野球規則では反則)があった。平林氏は、「二段モーションは、日本では正しくない投球動作なので、日本の審判はルールに基づいてきちんと判定します」と説明する。一方、米国ではそのルールが異なっている。
一般人でも気軽に動画が撮影できる現在は、かなり以前の試合でも動画サイトへの投稿で判定が論評されるケースも多い。一方で、それが審判員の技術向上につながったという。
「プレッシャーもありますが、自分の判定を録画し、試合後すぐに確認できるメリットもある。昔に比べて技術水準も上がりました。大リーグは試合中に、微妙な判定をビデオで確認する『チャレンジ』が導入されてから精度も上がり、日本のレベルに近づいています」(同)
選手や監督から抗議を受けて対応すれば、試合が中断し、試合時間も間延びする。2012年以降のプロ野球では、5分を超える抗議は「遅延行為」として退場処分にもなる。
古くからの野球ファンの間で語り草となっている「1978年の日本シリーズでの判定をめぐる猛抗議で、1時間19分の中断」といったケースは現在ではありえない。米国は抗議数も多いが、抗議を受けたら即退場にできるなど審判の権限が強い。