国土交通省が16年にマンションの管理組合に対して行った調査「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」では、回答数639件のうち87件(13.6%)で「連絡先不通または所在不明者」の存在する物件があるとの回答が寄せられた。
この連絡先不通・所在不明者物件のあるマンションの内訳を見ると、築10年未満で0.9%、20年未満で2.0%、30年未満で3.3%、40年未満で3.3%、40年以上で3.9%と、高経年になるほど所有者不明等の発生する割合が高くなっている。「土地家屋の場合には、人が住んでいないことが比較的わかりやすいが、マンションの場合、近所付き合いも希薄なため、居住者がいなくとも気付かないケースも多い」という。こうなると、管理費や修繕積立金等が徴収できなくなり、未収金が増加したり、資金が不足して管理が疎かになることで、建物の劣化が進んだりする可能性が出てくる。
そして、さらに問題なのは、マンションの老朽化に伴う建替え決議といった重要な決議ができなくなる可能性があることだ。国土交通省の「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」でも、「所在不明者により、今後困難になると危惧されること」として「今後は、一定数の所在不明者を抱えた状態により、建替え決議等の成立が困難になることが危惧される」との回答が71.4%に上った。
つまり、所有者不明の部屋が増加することにより、管理費や修繕積立金等が足りなくなる、あるいは埋め合わせのために支払金額が増加する。管理が適切に行われないために建物が劣化し、資産価値が下がる。建替えを行うにも、建替え決議ができないため、建物の劣化・老朽化が進む――、という最悪の事態になる可能性があるということだ。
難しい物件の処分
“最後の切り札”は、所有者不明の部屋の処分だ。実は管理組合は、所有者不明となった場合には「不在者財産管理制度」、相続が放棄された場合には「相続財産管理制度」という制度により、物件を処分する権限を持っている。
ただし、問題がないわけではない。不在者財産管理制度にしても、相続財産管理制度にしても、所有者不明の部屋を処分するためには、家庭裁判所に申し立てを行わなければならない。その際には、予納金を入れなければならないのだ。金額的には100万円程度ですむが、この資金をどのように調達するのか。また、分譲マンションの部屋といっても、所有権を放棄するぐらいだから、当然資産価値が低い可能性がある。その部屋が満足な値段で売却できるのか、といった懸念もある。
もちろん、ある程度の価格で処分できれば、それは予納金に充当したり、未納となっていた管理費や修繕積立金等に充当することができるが、“取らぬ狸の皮算用”にならないかが心配だ。
このように、所有者不明の土地や物件が増加してくると、住宅選びの際にも物件そのものだけではなく、その地域の住人やマンションの住人の状況も把握しておく必要がある。そうしないと、せっかくの高額な買い物もどんどん資産価値が下がってしまう。それでも、“一国一城の主”になるか、賃貸に住み続けるのかは、あなた次第だ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)