なぜ『日本100名城に行こう』は60万部のベストセラーに?つい買わせるマニアックな秘密
お城めぐりのスタンプラリーには、夫婦でも友人同士でも出かけられます。特に、シニアの男性同士だと、ゴルフや釣りなど趣味が同じでないとなかなか一緒に出かけられないものですが、スタンプラリーという共通の「目標」ができると一緒に出かけやすくなりそうです。
日本城郭協会の「公式スタンプ帳」が、成功要因の9割
この学研の本が、お城のガイドブックという市場をほぼ独占できた秘訣は、まずは、日本城郭協会と組んだことです。そして、協会が認定した「100名城」と連動した「公式スタンプ帳」を独占的な付録にすることができた点です。
城郭の解説や案内で、競合書籍と差別化するのはなかなか難しいでしょう。城という同じ対象物を扱い、あまり専門的な内容を掘り下げすぎないとなると、似通った内容になってしまいがちです。
そのため、本の内容ではなく、この「公式スタンプ帳」という付録で差別化を図ったのが最大の成功要因です。この“付録での差別化”は、宝島社の雑誌を彷彿させます。「InRed」や「GLOW」といった宝島社の女性誌が、豪華な付録付きを武器に、発行部数の上位を独占しているからです。
この「公式スタンプ帳」は、日本城郭協会という、ある種の権威が公式に認定している、間違いのない本を連想させます。そして、お城を本で見たり知識を増やしたりするだけでなく、実際に自分も出かけて見に行くというワクワク感まで感じさせてくれます。さらに、協会が認定する「登城完了」や「登城順位」まで、この本なら道筋がつくという簡便さとお得感、達成時の高揚感まで予感させるのですから、売れるはずです。
また、学研はシリーズの新刊『続日本100名城 公式ガイドブック』を、もちろん「スタンプ帳」付きで発行。さらに、そのスタンプ帳をガードする「特製スタンプ帳カバー」を応募抽選でプレゼントするキャンペーンを行うなど、「スタンプ帳」を軸にすべての活動を統括しています。
読者の「見たい」「集めたい」「達成したい」「認められたい」という気持ちをすべて満たす仕組みは、本の「売り切り」ビジネスではなく、売ったあとも継続してサービスを提供するような、本の新しいあり方を見せてくれているのではないでしょうか。
(文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役)