万人ウケ狙いの総合居酒屋、今は誰からも選ばれない理由
では、チェーン居酒屋はどう変わるべきなのか?
「やはり、総合居酒屋という業態から脱却し、高く売れる素材を用いて“適正価格”で販売できる新業態を打ち出していくべきでしょう。居酒屋業態は“安い”にこだわりすぎていた感がありますので、総合居酒屋全盛期のような低価格競争に依存しない環境をどうつくり出すかが今後の課題となります。宴会を前提にした大きなスペースをなくす、飲み放題で利益を出すという発想をなくす、こういったことからスタートしなければいけないでしょう。
日本酒を例に挙げるとすると、以前より出荷量が減少していますが、特定名称酒は減少することなく順調に推移しています。つまり、消費者の志向が量から質へと変化しており、質を伴う適正価格の日本酒は変わらず支持されているということがわかります。そういった消費者の志向、嗜好の変化に総合居酒屋は対応できていなかった、ということです。
決して、お酒があまり飲まれなくなったから、居酒屋が廃れたわけではないのです。
今や『安い・早い・美味い』はちょい飲みができる店や立ち飲み店が市場を確立しておりますので、『高い・早い・美味い』をキーワードに生き残りを模索すべきだと思います。とはいえ、意味なく価格が高いだけのお店など消費者は望んでいません」(同)
もちろんワタミグループやモンテローザグループといったチェーン居酒屋を手がける大手も、ただ指をくわえて見ていたわけではなく、数年前から『和民』や『白木屋』などの総合居酒屋を業態転換し別のお店に変える施策を行っている。
「ワタミグループの『にくスタ』はカタマリ肉ステーキとサラダバーをウリにした業態で、新しいことにトライしていこうという姿勢が見えますね。現在はこの『にくスタ』のように、“高品質・価格相応の業態”で消費者心理をつかむことが問われているのだと思います。魚類限定のお店でもいいでしょうし、一例ですがもっとテーマを絞ってポテトサラダに特化させたお店などでもいいでしょう。要するに総合居酒屋全盛期とは違い、料理のラインナップを絞って勝負する時代なのかもしれません。
また、料理とは逆に、アルコール類は品揃えの豊富さがカギになるでしょう。家呑みではなかなか味わえないような貴重な銘柄のお酒などを取り揃え、お酒も量ではなく質で選んでもらえる店にする。飲み放題獲得や宴会需要を狙って“安く売る”ための工夫をしていた総合居酒屋が価値を失った今、“高く売る”ための工夫が問われているということでしょう」(同)
万人ウケを狙っていた総合居酒屋が逆に選ばれる価値を失ってしまったことを教訓に、「テーマ性=わかりやすさ」を打ち出していけば、今の消費者に選ばれる価値のある居酒屋となれるということなのかもしれない。
外食市場での“一人負け”から復活するには、いかに大手チェーンが総合居酒屋の業態から脱却し、イノベーションを起こせるかにかかっているようだ。
(取材・文=A4studio)