内紛の影響
客離れが起きたのは、“お家騒動”の影響もあるだろう。実質的な創業者の三森久実氏が15年7月に急逝し、同氏に対する功労金の支払いや息子・智仁氏の処遇をめぐり、創業家と経営陣が対立した。
久実氏の妻・三枝子氏が遺骨を持ち、背後に智仁氏が位牌・遺影を持って社長室に押し入り、社長の窪田健一氏に智仁氏を社長に据えることを要求した「お骨事件」を演じるなど、世間の注目を浴びた。また、創業家に対する功労金の支給についてゴタゴタが続いた。これにより「大戸屋はヒトとカネで揉めている定食屋」というイメージがついてしまった。
お家騒動による影響は、こうしたイメージダウンだけではない。騒動により従業員のモチベーションが低下し、それによりサービス品質が低下したことで客離れが起きた面もあると考えられる。
上層部が揉めていては、その下で働く従業員のモチベーションが上がるわけがない。従業員のモチベーションが上がらなければ、サービス品質は低下するだろう。店舗でいえば、調理の質や、接客や清掃といった店舗オペレーションの質が低下する。それを嫌気する客がいても不思議はない。
実際に、この騒動が世間の話題に上っていた時期と、客離れが起きていた時期は概ね一致している。このことから、騒動によりイメージダウンとサービス品質の低下が起き、それが客離れにつながった可能性は高い。
騒動により客離れが起きることは、たとえば、親子喧嘩で業績が悪化した大塚家具が証明している。大塚家具は親子喧嘩でイメージが悪化しただけでなく、店頭での接客力が低下した。そして、それが一因となって客離れが起き、業績が悪化した。大戸屋は大塚家具ほどではないにしろ、似たようなかたちで客離れが起きたといえる。
大戸屋では客離れが止まらない状態だが、手をこまねいているわけではない。対策のひとつとして、今年5月に中期経営計画を見直し、立て直しを図ろうとしている。コンセプトを「家庭食の代行業」から「健康提供企業」に変更し、栄養バランスが良いメニューを強化するほか、男性がしっかり食べられる食堂など新業態を開発する方針を示している。新たな方針をもとに集客を図る考えだ。
果たして大戸屋は復活できるのか。今後の行方に関心が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。