ところが、ベクテルは中核的立場から外れ、日立の原発子会社、ホライズン社が前面に出る。日立と日揮はホライズン社から直接受注するかたちになる。ベクテルは建設コストを計算したり、工程を管理する“監督役”として残るという。
日立は資金を支援する英国政府から強くコスト削減を求められており、ホライズン社が原子炉やタービンなどの設備工事を直接発注すればコスト削減につながると、日立は説明している。
だが、「ベクテルが高騰する建設費を懸念して工事の主体になることを避けた」と見る向きが多い。
日程が遅れるなどして建設費が想定より膨らんだ場合の損失は誰が負担するのか。3社体制を見直した結果、リスクはホライズン社が一手にかぶることになる。だが、実態は「ホライズン社=日立」である。
日立はホライズン社への出資を金融機関などに呼びかけており、自社の出資比率を100%から50%未満に引き下げて連結決算の対象から切り離すことを、着工の条件としている。ベクテルが降りたため、ホライズン社の損失リスクが高まったとの見方が台頭している。ホライズン社の出資金集めが難航すれば、事業の継続さえ危うくなる。
日立は7月30日、英国での原発計画をめぐり、現時点で中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとの見通しを明らかにした。中止の決定が遅くなれば、損失はさらに膨らむことになる。
「傷を深くしないために、即刻、英国原発から撤退すべきだ。へたをすれば東芝の二の舞いになる」と懸念する声が経済・産業界から上がる。撤退は中西会長の決断にかかっている。しかし、ビジネスライクで割り切れない事情があるのは間違いない。
安倍晋三政権は、退潮に拍車がかかる原発の輸出を、成長戦略の柱に据えている。その一環として資金難に悩む英原発事業に、官民で1兆円超を投資するプランを打ち出した。
日立は安倍政権と二人三脚で原発ビジネスに推進するという構図が、すでに出来上がっていると指摘する向きもある。外資系証券会社のアナリストは、こう懸念する。
「日本政府の英国原発への大盤振る舞いが、日立に撤退のタイミングを失わせるかもしれない」
中西氏の立場は微妙だ。経団連会長となったことで一層、ビジネスライクに割り切ることができなくなった。英国政府、日本政府の両方の立場を考慮しなければならないからだ。
中西氏は英国原発プロジェクトからの撤退を決断できるのか。撤退できなければ、日立は“東芝化”の道を歩む可能性が高い。
(文=編集部)