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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ボジョレー・ヌーヴォー、生産量の半分は日本に輸出…なぜ解禁日がある?

文=篠崎靖男/指揮者

ボジョレー・ヌーヴォーより早く新酒のワインを楽しめる

 ところで、ボジョレー・ヌーヴォーが新酒中の新酒かといえば、音楽の都・ウィーン市民は怒りだすかもしれません。ウィーンは、地理的にフランス、スイスから始まったアルプス山脈が終わる位置にあるため、ワイン栽培にちょうどいい傾斜の土地が豊富にあり、世界中の首都で、もっとも多くワインを生産している街でもあります。そんな街に僕は指揮の勉強のために留学していたのです。

 11月のある日、街を歩いていると、露天でワインを売っているのを見つけました。特に何も意識せずに買って飲んだその白ワインが、なんとみずみずしく、さわやかな香りでおいしかったのです。お店の人もお客も、とても嬉しそうにしています。実は、ウィーンを首都とするオーストリアでも、新酒解禁日があるのです。これは、とても古い歴史があって、1789年までさかのぼります。当時の皇帝・ヨーゼフ2世は“啓蒙君主”。特権階級である修道院をいくつも解体したくらい急進的で、“人民皇帝“というあだ名をつけられていたくらいですが、それまで修道院の利権でもあったワインづくりを一般市民に開放し、自家製ワインの販売を許可したのです。そして毎年11月11日を新酒ワイン解禁日と決めました。そのため今でもオーストリアでは、フランスのボジョレー・ヌーヴォーよりも早く、その年の新酒を飲むことができるのです。

 ちなみに、ヨーゼフ2世は、モーツァルトのパトロンでした。フランス革命の露と消えたマリー・アントワネット妃の兄でもある彼が自家製ワインを解禁した1789年は、7月にパリ市民がバスティーユ監獄を襲撃してフランス革命が始まり、ヨーロッパ中の王侯貴族が震撼した年です。そんな時、対フランス政策に憔悴しきったヨーゼフ2世を慰めるために、モーツァルトは歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」の作曲を進めていたのです。好奇心旺盛なモーツァルトは、11月11日に初解禁された新酒ワインを飲みながら、あの素晴らしい音楽を書いていたに違いありません。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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