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クーデターの川崎重工“叩き”報道にみる、メディアのダブルスタンダードと偏向(?)

文=編集部
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クーデターの川崎重工“叩き”報道にみる、メディアのダブルスタンダードと偏向(?)の画像1川崎重工業・播磨工場(「Wikipedia」より/秋空から蛇が降ってきた)
 メディアの川崎重工業叩きが激しい。中でも日本経済新聞は、その傾向が顕著だ。

『川重社長、詳細語らず』(6月26日付同紙夕刊)は、次のように報じている。

「長谷川聡前社長らを解任する異例の事態が発生。統合に反対してきた村山滋社長は『メリット、デメリットを鑑みて企業価値の向上につながらないと判断した』などと話したが、交渉の詳しい経緯についての説明は避けた。長谷川前社長ら解任された取締役3人は欠席した。(中略)会社側は『三井造船と守秘義務契約を結んでいるので、詳細については言えない』(村山社長)との説明に終始」

 川重の新経営陣は三井造船との守秘義務契約を結んでいるので詳細は言えない、ときちんと回答しているわけだ。一方、6月27日付同紙夕刊の記事『株主総会ピーク。1100社が開催』では「スズキでは筆頭株主の独フォルクスワーゲンが資本・業務提携の解消申し入れを拒み国際調停になっていることについて、鈴木修会長兼社長が『守秘義務で経過報告できない。正々堂々と戦っていくのでお任せいただきたい』などと話した」としている。スズキの鈴木社長が守秘義務を盾に独VWとの国際調停の内容を明らかにすることを拒否しても、「スズキ鈴木社長、詳細語らず」とは書かない。

 日経グループの6月28日付日経産業新聞の自動車面も、スズキに説明責任はないという。

「VWとの提携解消をめぐる係争について質問が上がると、鈴木修会長兼社長は『守秘義務で経過の報告はできない。正々堂々戦っていくので今しばらくお待ちいただきたい』と仲裁がやや長期化していることを明らかにした」「また担当の原山保人副社長は『仲裁の関係者の日程調整で予想外の時間を要している』と説明したうえで、『事実に基づいて公正に判断されるものと信頼して進めている』と話した」

 守秘義務は、すべての企業にとってオールマイティだ。日経グループは、川重の新経営陣が主張する「守秘義務」とスズキのそれは、まったく別物のように扱っている。これこそダブルスタンダードではないのか。

 7月1日付日経朝刊の記事『経営の視点』で、編集委員はこう書いている。

「『35分の社長解任劇』に揺れる川崎重工業。2週間後の株主総会で株主がいきさつを聞いても村山滋社長は『守秘義務があるので詳しくは言えない』と繰り返すばかりだ。(中略)戦略上、外部に言えないことはある。すべてをガラス張りにしたのでは経営にならないだろう。だが投資家、取引先、従業員、顧客をミスリードする情報発信はよくない」

合併推進派寄りを軌道修正か

 その同紙が7月6日付朝刊で、おもしろい記事を掲載した。米国出身で複数の日本企業の取締役を務め、現在はプロ役員の育成に取り組む会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事にインタビューしたものだ。

「――川重の騒動をどう見る。
『日本企業の取締役が責務を十分に果たしていない典型だ。長谷川聡・前社長ら三井造船との統合推進派、村山滋・新社長ら反対派のいずれも、期待された役員力を発揮しきれなかった』
『役員力はひと言でいえば、取締役会で言いにくいことを先送りせずに主張する態度のことだ』」
「――川重にガバナンス(統治)がきいていなかったということか。
『ガバナンスは今も十分に働いていないと思う。船舶海洋事業を手放すのか、強化するのか、未だに明確にしていないからだ。ガバナンスとはかじ手を意味するギリシャ語が語源。会社の長期的戦略の方向付けは統治の最たるものだ』」
「――前社長の統合交渉の進め方に問題は。
『統合メリットを十分に分析したか疑問だ。ほかの取締役に統合交渉を知らせる時期も、最初に報道された4月22日の直前と遅かった。報道の時点で川重は複数の財務アドバイザーを雇っており、機密保持を優先する局面はとっくに過ぎていた。事情を知る関係者は川重、三井造船双方で何人もいたはずだ』」

 ニコラス・ベネシュ氏は、合併推進派の社長以下3人の役員も、合併阻止派も、ともに「役員力」が不足している、と断じているのだ。見方によっては、合併推進派寄りだった日経が若干、軌道修正をしたとも受け取れる内容なのだ。

 7月2日付同紙朝刊では、長谷川前社長がメディア各社の取材に応じ、「納得はしていないが、多数決での取締役会の決定は受け入れる」と述べている。「地位の保全などを求める法的措置を取る考えはない」としたうえで「自分としては川重を離れるつもりはない」との意向を示した。

 社長を解任された現在の心境については「取締役たちの心の中までくみ取れなかったことから考えると、社長の器ではなかったのかもしれない」と答え、「会社のためにも(これ以上は)話さないことが一番だ」と、今後は一連の経緯については発言を控える考えも示した。

 川重の大橋忠晴相談役(前会長。今回のクーデターの首謀者と取り沙汰されている)は7月1日、会頭を務める神戸商工会議所の定例会見で、三井造船との経営統合交渉の白紙撤回や前社長の解任について「ノーコメント」「会頭の立場で答えるべき質問ではない」とかわした。記者から「株主への説明が不十分ではないのか」などと重ねて問われたが「申し訳ないが何回聞かれてもノーコメント」としか答えなかった。株主への説明が不十分と感じている株主が多かったのなら、村山新社長などの経営陣が総会で承認されることはなかったのではないか。

守秘義務という壁

 長谷川前社長は「会社のためにも(これ以上は)話さないことが一番」といい、大橋前会長も「一切、ノーコメント」で通すつもりだろう。「今は相談役であり、会社に対して責任を持てる立場ではない」というのも間違った発言とはいえない。

 守秘義務の話に戻ると、川重-三井造船の提携交渉には当然、守秘義務契約があっただろう。取材する側がこの大きな壁を乗り越えるには、それを突破する取材力を磨くことが先決で、川重叩きは、本末転倒ではないのか。

 一方、6月14日付朝日新聞夕刊は、次のように報じている。

「突然のクーデターの背景について、プラント部門の年配の男性は『この会社は役員と社員、それに部門間に断絶がある』と社内の風通しの悪さを指摘した。(中略)別の中年男性は『雲の上の出来事で、一般社員には関係ない』と言い切った」

 守秘義務などという高尚なレベルではなく、「一般の社員には関係ないクーデターが起こる会社の風土」を取材するほうがおもしろいかもしれない。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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