今のところ市場はルノーと日産が一体であることを前提に動いているが、肝心の資本構成が決まらない限り、両者の経営統合が進まないことは明らかである。ルノーと日産がバラバラの状態では、両社ともただの中堅企業にすぎず、トヨタやGMといった巨大企業に対抗するのは不可能というのが市場の一致した見方である。
ルノーと日産が経営体制をめぐって不毛な交渉を続けている間に、自動車業界は激しく動き始めている。
3社連合がゴタゴタしている間に、競合他社は矢継ぎ早に新戦略を立案
ホンダは世界最大の電池メーカーである中国の「寧徳時代新能源科技(CATL)」と、EV向けリチウムイオン電池の開発・生産に関する戦略的パートナーシップを締結した。車載用電池を両社で共同開発するとともに、CATLは2027年までにホンダ向けに56ギガワット時のリチウムイオン電池を供給する。
トヨタは、ホンダとほぼ同じタイミングで、パナソニックとの提携を発表した。車載用電池事業について2020年末までに合弁会社を設立し、新会社には両社から合計3500人が移管する。合弁会社ではリチウムイオン電池を生産するほか、次世代の有力技術である全固体電池の研究開発も行う予定だ。
もっとも、トヨタは世界トップ4社のひとつであり、パナソニック1社からの電池供給だけですべてのEVをカバーすることは不可能である。トヨタは水面下で、今回ホンダと提携したCATLと本格的な提携に向けた交渉を行っているとされる。近いうちになんらかの発表が行われる可能性は高いだろう。
世界の自動車市場は、まさに急ピッチでEV化に向けて動き出しているわけだが、ルノーと日産は資本構成の見通しさえ立てられない状況となっている。
3社連合がグローバル市場で高い評価を受けてきたのは、ゴーン氏による強いリーダーシップで、EVを軸にした中国市場攻略がスムーズに進むと予想されていたからである。だが、このままでは3社連合最大の強みである中国市場におけるEV戦略にも遅れが出かねない。
最大の懸念材料は、3社連合から危機感がまったく感じられないことである。スナール氏は経済紙とのインタビューで、経営統合に含みを持たせる発言を行ったが詳細は曖昧なままだ。ルノーと日産に残された時間は少ない。
(文=加谷珪一/経済評論家)