肝心の資本構成には言及せず
株式会社の経営においてもっとも重要な事項である資本構成について、3社トップがまったく言及しないということからも、この組織の位置付けがわかる。
新組織設立を発表した記者会見には3社のトップが顔を揃え、親密ぶりをアピールした。記者からは当然のことながら資本構成に関する質問が集中したが、「この組織は資本構成について議論するものではない」として回答をすべて拒否している。
先ほど、アライアンスボードは「3社のオペレーションやガバナンスを監督する唯一の機関」であると説明したが、あくまでこれは会社側の主張である。肝心の資本構成を議論しないということになると、事実上、ガバナンスの監督はできないということを意味しており、会社側が主張している機能を実現するのは難しいといわざるをえない。
ルノーの大株主であるフランス政府は、かねてからルノー主導での経営統合を望んできたが、フランスでは自動車燃料増税をめぐって激しいデモが行われており、マクロン政権はデモへの対応で精一杯という状況が続いている。少なくとも現時点においては経営統合問題の優先順位は低く、ルノー側も動くに動けない形だ。
こうした事情が複雑に絡み合った結果、合議制での現状維持に落ち着いたと考えられる。
日産経営陣は、ゴーン氏を暴力的に排除してまでルノー主導による経営統合回避を望んでいたことを考えると、日産にとってはホッと一安心といったところだろう。会見では、記者から「(西川社長の)笑顔を見るのは久しぶり」という皮肉めいた発言も飛び出していた。
日産とルノーがバラバラのままでは競争に勝てない
日産の経営陣にとっては喜ばしいことかもしれないが、市場はそう見ていない。なぜならルノーと日産に残された時間は少ないというのが一致した見方だからである。
自動車業界は100年に一度という変革期を迎えており、上位企業による寡占化が急ピッチで進んでいる。現在、グローバル市場でトップに立つのは独フォルクスワーゲンで、2位がルノー・日産連合、3位がトヨタ、4位がGMとなっている。
これに加えて中国市場や欧州市場を中心にEV(電気自動車)化の流れが加速しており、各社はEVへの対応を迫られている。
EV化が進むと、自動車産業は従来型の垂直統合モデルから水平統合モデルへのシフトが発生する可能性が高い。EV化によってコスト競争が激化するのはほぼ確実であり、新しい時代を勝ち抜くためには、従来とは比較にならない低コスト化が必須となる。つまり、これまで以上に規模のメリットが大きな意味を持つようになるのだ。