問題はそれだけではない。同社は石川県に1700億円を投じてアップル向けの最新工場を建設したが、この工場の建設資金の多くはアップルが負担していた。工場の建設資金もアップルに面倒を見てもらっている状況では、価格交渉力など持てるはずがない。
さらに言えば液晶パネルというのは、すでに汎用品となっており価格低下が著しい分野となっていた。技術力に大きな差はないので、アップルなど完成品メーカーにとって、採用の決め手は価格になる。実際、同社とシャープは際限のない顧客の奪い合いを行い、自ら業績を悪化させるという失態を演じてしまった。
最初から負けが決まっているゲーム
このように書くと、同社の経営陣はあえてダメになる方向に経営を舵取りしたように見えるかもしれないが、そうではない。同社の経営陣が優秀でなかったのは事実だが、付加価値の低い製品でビジネスをする以上、このような結果になるのは目に見えているというのが現実である。
これは部品を発注するアップル側の気持ちになってみれば、わかるはずである。
アップルは日本や韓国、中国のメーカーから部品を調達し、iPhoneなどの製品を製造する完成品メーカーである。当然のことながらアップルは利益を最大化するために部品を1円でも安く調達したい。だがiPhoneは全世界の人が利用する基本インフラとなっており、必要な量を出荷できないというトラブルだけは絶対に避けたいはずである。
値引き交渉をやり過ぎて、部品メーカーの体力が落ち、生産に支障をきたすようでは意味がないので、アップル側は部品メーカーの生産力についても考慮する必要がある。だがアップルは世界屈指の高収益企業であり、莫大な資金を持っている。こうした状況でアップルが考えることはひとつしかない。
それは部品メーカーに対して徹底的な値引き要求を行い、経営体力が低下する分についてはアップルが資金援助するというやり方である。これが実現できれば、調達価格をギリギリまで引き下げると同時に、部品メーカーをがんじがらめにし、意のままに操ることができる。
ジャパンディスプレイがアップルから資金援助を受けたのは、同社が安易な決断を行った結果ではなく、そうしないとアップルから仕事を取れなかった可能性が高い。同社が国策企業であり、業績を拡大しなければ国民に説明がつかないという「弱み」を、アップル側は完全に見透かしていただろう。
国策企業として税金が投入され、価格低下が著しい製品を取り扱い、しかも主要顧客は世界でもっとも強大で強欲なIT企業である以上、ジャパンディスプレイに選択肢はなかったといってよい。つまり最初から負けが確定したゲームといっても過言ではないのだ。