日産自動車が、仏ルノーとその大株主として背後に控えるフランス政府に対する不信感を高めている。ルノーと伊FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)の経営統合が失敗したことで、アライアンスをフランス経済の立て直しに役立てようとしているフランス政府の思惑が表面化し、日産は疑念を深めている。今後、フランス政府が日産とルノーの経営統合に向けて、さらに揺さぶりをかけてくるのは確実。日産がフランス政府とルノーに向ける視線は冷めており、対立がエスカレートすれば提携の見直しにも発展しかねない状況だ。
6月6日にFCAが発表したルノーとの経営統合の提案を撤回するステートメントに、もっとも衝撃を受けたのはフランス政府だ。FCAは5月27日、ルノーに経営統合を提案したと発表した。提案内容は、FCAとルノーが50対50の対等で統合し、本社はオランダに置くというもの。統合会社の当初の取締役数は11人とし、このうちFCAとルノーが4人ずつ、日産が1人をそれぞれ指名する。また、長期保有株主の議決権が2倍となるフランスのフロランジュ法の適用は受けない。
経営統合が実現すれば年間新車販売台数が約870万台と、世界3位の自動車メーカーとなるだけでなく、アライアンスパートナーである日産、三菱自動車を含めると新車販売台数が年間1500万台以上の世界最大の自動車メーカーグループが誕生する見通しだった。
ルノーは提案に前向きで、6月4日の取締役会でFCAと経営統合に向けた協議に入ることを正式に決定すると見られていたが、「5日に継続協議する」と発表。そして5日のルノーの取締役会で、日産が指名した取締役2人が経営統合の支持を保留すると、フランス政府を代表する取締役が採決の延期を要請、FCAとの統合協議入りの決定を先送りした。
この報告を受けたFCAのジョン・エルカン会長は、即座にルノーに対する経営統合の提案を取り下げることを決定した。FCAはステートメントで、提案に対して前向きに取り組んでくれたとしてルノー、日産、三菱自に謝意を示すとともに、経営統合の提案が多大なメリットをもたらすことを現在も確信しているとしながら、「フランスにおける政治的条件により、統合を実現できる状況にない」とし、フランス政府の介入が提案撤回の理由と暗に示した。