2011年の1号店出店から1年で100店舗の出店を達成しブームとなった「東京チカラめし」。一般的な「煮る牛丼」ではなく「焼く牛丼」を武器に3大チェーンが牙城を占める牛丼業界に殴り込みをかけるかたちとなったが、13年頃の130店をピークに徐々に店舗数は減少。現在では店舗を目にする機会はなくなったが、実は千葉と大阪に計2店舗のみ営業していることは、あまり知られていない。年内には10年ぶりの新規出店を計画していることも伝えられ(2022年11月18日付毎日新聞ウェブ版記事より)、一部で話題を呼んでいるが、果たして現在の牛丼の味や店舗の様子はどうなっているのか。専門家の見解も交えて追ってみた。
東京チカラめしは、居酒屋「東方見聞録」「月の雫」「金の蔵Jr.」などで知られていた三光マーケティングフーズ(現SANKO MARKETING FOODS)が運営。11年6月に東京・池袋に1号店を出店し、一時は500店舗の出店を計画していたが、売上が急減。13年頃からは東京チカラめしの相次ぐ閉店とともに三光の業績も悪化していった。
「三光は270円均一の金の蔵Jr.などで格安居酒屋ブームを牽引したが、その居酒屋事業が低迷し始め、一気に東京チカラめしの注力にギヤチェンジした。だが、過度な出店攻勢が裏目に出て、牛丼のクオリティーや店舗運営にアラが目立つようになった。特に店内の衛生面には行き届いていない部分が目立ち、客離れが生じた。加えて、吉野家をはじめとする大手牛丼チェーン各社が一斉に『焼き牛丼』を投入したことで、東京チカラめしのオリジナリティーが失われた点も大きかった。
『たかが牛丼』と思われがちだが、大手チェーン各社の料理の品質向上や店舗オペレーション向上に対する努力はすさまじく、常に集客力を保つために頻繁に期間限定メニューを投入するなど、ノウハウのない企業が簡単に参入できる業態ではない。いくら低価格とはいえ『焼き牛丼』1本勝負では厳しく、東京チカラめしが淘汰されたのは必然といえる」(外食チェーン関係者)
価格の妥当性を検証
そんな東京チカラめしだが、現在は千葉県鎌ヶ谷市の「新鎌ヶ谷店」と大阪市の「大阪日本橋店」の2店舗のみが営業。新鎌ヶ谷店のメニューをみてみると、「焼き牛丼(並)」(580円)、「豚バラ丼(並)」(550円)のほか、「唐揚げ定食」(680円)、「野菜牛焼肉定食」(800円)、「焼肉カレー(並)」(780円)なども提供されている。気になるのは、その味だが、店舗で実食したフードアナリストの重盛高雄氏はいう。
「ある日曜日の昼前に新鎌ヶ谷店を訪問したところ、数名の男性客がいた。ある客はカレーを食べていたが、その容器の大きさに驚いた。現在でもボリュームの多さをウリにしているようで、メインの客層は男性だと思われる。以前、東京都内にあった店舗を利用したことがあるが、脂身のギトギト感が強く、私には合わなかった。その後、唐揚げ系や定食系がメニューに多くなっていった印象がある。
今回、久しぶりに『焼き牛丼(並)』を食べたが、進化したとみられる点が焼き方だ。かつてはフライパンに肉を入れ、タレをまぶして豪快に焼き上げていたが、現在では網に乗せた肉を大型のグリル用機械に入れ、焼きあがった肉にタレをかけて提供している。これにより、余計な脂が落ちて、以前のような脂まぶし飯になっていない。だが、肉の脂身部分が多く、肉というよりは脂身を食べさせられている感覚になり、これでは『牛肉の脂身丼』だ。
このクオリティーで580円という価格は高く、価格に妥当性があるとは感じられない。肉を焼いてご飯に乗せるだけなら自宅でも簡単にできるし、煙対策や後片付けの手間はあるものの、同じ金額でより質の良い肉をより多く食べることができるだろう。
また、券売機が現金のみの対応で、押す回数が少なくて済み、どの年齢層の客にとっても使いやすいのは確かだが、駅の連絡通路という立地を考えても、せめてPASMOは使えるようにしてほしい。私が店舗に滞在中にも複数のテイクアウト客が来たり、デリバリーの注文が入ったりし、地元住民にはある程度、利用されている様子がうかがえた」
前述のとおり年内にも東京チカラめしは新規出店する予定だが、順調に店舗数を増やしていくことができるのだろうか。
「過去に大量閉店に至った理由を正しく理解したうえでなければ、最初の数カ月は集客数が増えるものの、その後は右肩下がりになるだろう。コロナ後は外食回帰が進んでおり、多様な選択肢が存在するなかで選ばれる存在になれるかは、店舗の提供する価値が正しく消費者に伝わるかどうかにかかっている。過去の東京チカラめしの焼き牛丼は『焼く』という付加価値しか提供できていなかった。消費者の求めるQSC(質・サービス・清潔)が担保されておらず、それゆえ消費者に選ばれなくなった。安いだけでは選ばれなくなった外食産業にあって、価格相応の味わいやサービスを提供することができるか、消費者の期待を上回る価値を創造することができるかが成否を分けるだろう」
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)