伊藤忠商事、年収4千万円でも三菱商事との歴然たる格差…総合商社社員の生態

伊藤忠商事(「Wikipedia」より/Rs1421)

 総合商社の伊藤忠商事が、2025年度の社員の平均年収を24年度見込みから10%程度引き上げる方針であることが話題を呼んでいる。だが、「三菱商事・三井物産の2トップと伊藤忠の間には歴然とした格差が存在する」(伊藤忠社員)との声も聞かれる。その“差”とは何なのか。総合商社社員たちの見解を交えて追ってみたい。

 伊藤忠は2025年度の社員の平均年収を24年度見込みから10%程度引き上げる。24年度の純利益の計画値8800億円の達成が条件だが、改定後の成績優秀者の年収は、「BAND6(部長)」が4110万円、「BAND5(課長)」が3620万円、「BAND4(課長代行)」が2970万円、「GRADE3(担当者)」が2500万円となる。岡藤正広会長CEO名で書かれた文書「年収水準見直しについて」には、

「来期以降の処遇を大きく改善し財閥系商社に負けない水準の制度に改訂する」

「三菱商事及び住友商事と同じ業績を達成した場合には、両者と同水準となります」

「日本経済界でも突出した高給になります」

などと書かれており、競合他社を意識した施策であることがうかがえる。

 この文書で名指しされた三菱商事も、少し前に社員の賃金をめぐる話題が注目されていた。日本経済新聞社がまとめた「2024年夏のボーナス調査(中間集計)」により、今年夏の平均賞与支給額が641万円にも上ることが明らかになったのだ。

伊藤忠商事と三菱商事の利益構造

 財閥系商社とされる三菱商事・三井物産・住友商事に対し、伊藤忠は非財閥系と称され、財閥グループの力を頼れないなか独立独歩で業績を拡大。その積極果敢な社風から「野武士集団」ともいわれてきた。業績的には長きにわたり三井物産と三菱商事の後塵を拝してきたが、16年3月期に最終利益ベースで初めて業界1位に浮上。以降、三井物産、三菱商事と毎年、首位争いを演じている。5大総合商社の直近の24年3月期連結決算の純利益は以下のとおり。

  社名     純利益
・三井物産   1兆636億円
・三菱商事    9640億円
・伊藤忠商事   8017億円
・丸紅      4714億円
・住友商事    3863億円

 伊藤忠の特徴として指摘されるのが、総合商社のなかでBtoC事業、DX事業に強いという点だ。参考に伊藤忠と三菱商事の23年度の各事業の当期純利益の構造をみてみよう。 

【伊藤忠商事】
・繊維:270億円
・機械:1316億円
・金属:2261億円
・エネルギー・化学品:917億円
・食料:663億円
・住生活:662億円
・情報・金融:678億円
・第8:358億円

【三菱商事】
・天然ガス:2195億円
・総合素材:644億円
・化学ソリューション:95億円
・金属資源:2955億円
・産業インフラ:427億円
・自動車・モビリティ:1414億円
・食品産業:149億円
・コンシューマー産業:493億円
・電力ソリューション:920億円
・複合都市開発:415億円

 伊藤忠商事の「第8」には完全子会社ファミリーマートをはじめとする小売などが属し、「情報・金融」には伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を中心に手掛けるDX関連が属する。三菱商事の子会社であるローソン、スーパーマーケットのライフコーポレーションは「コンシューマー産業」に属し、三菱商事は今年度からローソンやライフなどBtoCビジネスを「S.L.C.」という新たな事業区分にまとめ、同事業の連結純利益を24年度には1850億円まで拡大させる見通し。

年収トップは三菱商事

 近年では純利益ベースで伊藤忠が三菱商事と三井物産を上回る年度も出ているが、伊藤忠と三菱商事・三井物産の間には超えられない壁が存在するという。

(以下、「」部分は特に記載がない場合は5大総合商社社員の証言)

「年収でいうと商社トップは三菱商事で、その0.9掛けくらいなのが三井物産。業界ではこの2社とその他の間には大きな差があります。今回、伊藤忠は成績優秀者の担当者クラスの年収を2500万円に引き上げますが、以前から三菱商事の役職がない30代社員は特に成績が優秀ではなくても同水準の年収を得ています。その上の部長や課長の年収も、伊藤忠が成績優秀者の金額だとしているレベルは、三菱商事だと成績優秀者ではなくてももらえる金額ではないでしょうか」

「伊藤忠はギリギリまで経費削減したり、リスクの大きな事業に手を出したり、利益規模の小さな細かいビジネスにも注力したりと、あらゆる努力をしてなんとか利益をねん出しているというイメージなのに対し、三菱商事・三井物産はそこまで努力しなくても伊藤忠と同程度かそれ以上の利益を安定的に稼ぐことができています。これは三菱商事と三井物産が昔から手掛けている資源やプラントなど参入障壁が高くて事業規模の大きな既得権益的事業を抱え、さらにキャッシュや資産を潤沢に持っていることなどが理由でしょう。

 たとえば伊藤忠の社員は海外出張などで国際線の航空機に乗る際、一定以上の役職者ではないとビジネスクラスには乗れませんが、三菱商事は担当者クラスでもビジネスクラスです。また、海外のある都市に複数の総合商社が拠点を構えて、たまたま各社が用意した社員用の住戸が同じマンションになった場合、三菱商事社員の住戸の広さが伊藤忠社員のそれの2倍くらいあったり、治安が良くないため三菱商事社員はタクシー通勤しているところ、伊藤忠社員は徒歩で通勤するというケースもあります。なので伊藤忠の社員は自虐的に『やっぱりウチは“三流商社”だよ』と言っていますね」

サービス残業は基本的に「なし」

 高収入の総合商社社員だが、激務に耐えなければならないという声も聞かれるが、実際にはどうなのか。

「部署によります。比較的激務だとされる事業投資の部署の場合、扱う金額が大きく、社内外の関係するステークホルダーの数も多く、役員決裁を得るための申請書類を作成して社内申請を通したり、社外の取引先との契約書を何十種類も作成して締結にこぎつけなければならなかったりするので、忙しい月は残業が100時間を超えることもあります。今はどこの総合商社もサービス残業は厳しく禁止されており、残業代は1分単位で申請するかたちが一般的なので、基本的には働いた分だけ残業代は支払われます。ただ、月100時間を大きく超えると問題になるので、実態より少なく申請するということはあります」

「ウチは若手の担当者で月の平均残業時間が50時間くらいで、たまに80時間を超える月もあって年収は1400万円くらいです」

「商社なので海外とのやりとりも多いため、かつては時差の関係で深夜残業は当たり前で、海外出張から帰国して空港から会社に直行して仕事をするということもあったが、今は早朝出勤の推奨とセットで原則20時以降の勤務は禁止されており、職場関係の飲み会だけでなく社外の取引先との会食も22時以降は完全に禁止されている。基本的には土日もしっかりと休めるので、仕事はラクではないがかなりホワイトにはなった。ただ海外の駐在員は国によっては、かなり大変で危険も多い。例えば、ある国で新たな事業を拡大させるにあたり『ウチの会社は20時以降は働かないし、土日も働きません』と言ったところで通用しないし、『だったら、もう付き合わない』と言われればそれまでとなる」(40代・伊藤忠社員)

出世競争

 総合商社は出世競争も激しいといわれる。

「人によりますが、分かりやすい露骨な出世競争というのはみられません。ただ、今は同期入社組のうちで半分しか課長になれず、さらにそのうち部長になれるのは一握りで、課長になれないとずっと担当者のままだったり、子会社に出向させられることになるので、それなりにはシビアだとは思います。また、総合商社の役員になると年収が数千万円に上がり、権限も大きくなり、社会的な地位も高いので、部長になるとみんな役員を目指すことになり、レベルの違う出世競争が存在します。ただ、メガバンクのような露骨で目に見える熾烈な出世競争というのは、あまりないように感じます」

「一昔前と比べると出世競争というのは随分なくなりました。今の時代にそぐわないと言ってしまえばそれまでですが、どこの商社も残業規制が厳しくなって労働時間が減り、担当者レベルでもそれなりに高い年収を得られるので、必然的に出世競争というのが生じにくくなっている面はあるでしょう。今の20~30代の社員はゴリゴリと出世を競うということに抵抗があります。また、ビジネスの内容が非常に複雑化してきており、いろいろな人のスキルや能力の助けを借りないと事業を成り立たせて利益をあげられないため、社内的には競争よりも協力・強調が重視されるという要因もあるかもしれません」

「総合商社の社員というのは、ある意味で選ばれた人材」

 では、世間的には高いとされる総合商社の年収について、社員たちは割に合うと感じているのだろうか。

「人によるでしょう。総合商社の仕事というのは、非常に面倒かつリスクの高い誰もやりたがらない業務を、他の企業に代わって行うという側面が強く、かかわるステークホルダーも膨大な数に上るため、重いストレスに耐えなければなりません。なので『こんなに大変な仕事をしているのだから、これくらいの賃金をもらって当然』と考える人もいるでしょうし、『ちょっともらいすぎかな』と感じている人もいるでしょう」

「総合商社の社員というのは、ある意味で選ばれた人材です。非常に複雑な仕事に取り組み、ハードワークに耐えなければならないため、一定の知的能力とコミュニケーション能力、高い各種ビジネススキル、そして体力とストレスに耐えられる精神力が必要なので、誰もが務まるわけではないですし、入社試験では東大生でもバンバン落とされる狭き門です。そうした前提があるなかで、総合商社各社は優秀な人材をライバル企業と競って獲得しなければならないので、高い給与水準を用意せざるを得ないという事情もあるでしょう。

 とはいえ、より高い報酬を得られる外資系経営コンサルティング会社などに転職する人も最近は増えています。総合商社はいまだに年功序列的な部分が残っており、どんなに早くても課長になれるのは40歳手前、部長は40歳以上なので、その遅いスピード感に堪えられない上昇志向の強い人などがコンサルに流れています」

 総合商社にはどのようなタイプの社員が多いのか。以下は伊藤忠社員の証言だ。

「他の商社と比べると体育会系出身の人が多く、東京大学や京都大学、大阪大学などの国立大学や早稲田大学、慶應義塾大学など上位大学で体育会に所属していたというタイプが多い。MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)出身の人も結構いるが、本当に優秀な社員は東大出身が多かったりする」(24年9月9日付当サイト記事より)

(文=Business Journal編集部)

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