20代前半の平均年収374万円で家賃・食費は無料…自衛官は割に合うのか?

防衛省の公式サイトより

 防衛省の公式サイトに掲載された自衛隊の自衛官の平均年収が一部で話題を呼んでいる。例えば20代前半は約374万円、40代前半は約599万円、50代以降は652万円となっている。自衛官は駐屯地・基地に住むと家賃、食費、水道・光熱費がかからず仕事用衣類・靴も貸与されるため生活費を低く抑えられるとされるが、労働時間や職務内容などを勘案すると、給与水準は割に合うといえるのか。元自衛官らの証言を交えて追ってみたい。

 2024年3月末の自衛隊の定員は陸上自衛隊が15万245人、海上自衛隊が4万5414人、航空自衛隊が4万6976人、統合幕僚監部などが4519人。充足率は90.4%で現員は22万3511人に上る。年間の採用数は万レベルだ。23年度の自衛官などの採用数は、計画数1万9598人に対し実績は9959人(前年度比約1800人減)。陸・海・空曹自衛官を養成する「一般曹候補生」の採用数は4969人(計画数7230人)。教育を経て3カ月後に2等陸・海・空士(任期制自衛官)に任官する「自衛官候補生」は3221人(計画数1万628人)となっている。

 自衛官の給与水準はどうなっているのか。防衛省の公式サイトの「自衛隊帯広地方協力本部」のページによれば、自衛官の平均年収、および民間企業の平均年収は以下のとおり。

・20~24歳:約374万円(参考:民間企業の全国平均年収 293.2万円)
・25~29歳:約428万円(同 382.8万円)
・30~34歳:約440万円(同 434.2万円)
・35~39歳:約509万円(同 471.2万円)
・40~44歳:約599万円(同 502.4万円)
・45~49歳:約637万円(同 522.8万円)
・50歳~:約652万円(同 577.4万円)

 事実上の初任給である自衛官採用後の月給は以下のとおり。

・自衛官候補生(2等陸士任官後=3カ月経過後):15万7100円(19万8800円)
・一般曹候補生:20万3600円
・幹部候補生 防大卒・一般大卒:24万3500円
・幹部候補生 大学院卒:25万8600円

 賞与(ボーナス)は夏・冬それぞれ給料の2.235カ月分で、金額は以下のとおり。

・一般曹候補生:(夏)約46万8800円、(冬)約46万8800円 ※採用2年目
・幹部候補生 防大卒・一般大卒:(夏)約65万8300万円、(冬)約65万8300万円 ※概ね採用2年目の幹部任官後

 このほか、前述のとおり駐屯地・基地に住むと家賃、食費、水道・光熱費が無料のほか、ケガ・病気時は自衛隊病院や医務室を利用すると費用はほとんどかからず、格安の掛金で加入でき有利な保障を受けられる保険、共済組合が運営する民間企業よりも高利率の貯金事業なども利用できる。

初任給は手取り額で16万円

 こうした給与水準や待遇は、自衛官の労働時間や内容を勘案すると、割に合うといえるのか。元陸上自衛官でYouTubeチャンネル「ゆっくり主夫男チャンネル」を運営する主夫男・太郎さんに聞いた。

「私が自衛官候補生として入隊したときの初任給は、税金や諸経費などが全額あらかじめ差し引かれた手取り額で16万円ほどでした。民間企業の社員であれば、そこから家賃や生活費を払わなければなりませんが、16万円は丸々、自分で自由に使えるお金になりました。現役時代に給与が低いと感じたことはないですが、国防という重要な任務を担い、災害時や海外での有事には非常に危険かつ大変な任務に就くことを考慮すれば、もう少し高い水準でもよいのではないかと感じます。古い兵器や車両など装備品の更新にお金がかかるので、とことんまで経費を切り詰めなければならないという事情は理解できるものの、自衛官のなり手が不足していて人が欲しいのであれば、給料を上げる必要があるのではないでしょうか」

 自衛官の平時の業務はどのような内容なのか。

「私は施設科勤務で、車両の整備や備品の在庫確認・メンテナンスが主な業務で、年2回の定期整備と呼ばれる演習場の整備では、砲弾で崩れた場所の原状回復を行ったり、訓練計画に沿ってフィールド整備や塹壕の建設、道路の建設などを行っていました。ちなみにテレビの密着番組などでよく流される、兵器を持って訓練したり戦闘車両に乗っている人は、陸自の普通科や機甲科の所属です。

 駐屯地だと朝6時にラッパの音で起床し、掃除や食事をして8時に朝礼・報告から勤務が開始され、夕方5時にラッパの音とともに国旗が降ろされるのを直立不動で見守り、勤務が終了となります。その後は夕食、入浴をして基本的には就寝まで自由時間となります。

 勤務終了後は平日でも許可を得れば外出が可能ですが、基本的に駐屯地や基地は僻地にあることが多く、よほどの理由がない限りは平日の夜に駐屯地の外に出るということはありません。公務員なので土日祝日はお休みで、緊急事態に備えて数人は交代で駐屯地に残りますが、最寄りの市街地に出て漫画喫茶の個室に行ったり、大人のお店に行ったりと各人が思い思いの時間を過ごすかたちです。隊によりますが、私が所属していた隊は配属から1年間は外泊が禁止となっていました」

組織体質が古くて男社会

 日々の業務や駐屯地での生活で、つらいと感じることは何か。

「業務については、それほど難しいことを求められたり、過度な重労働をやらされるわけではないので、そこまでキツイと感じたことはなかったですが、その一方で雑用的な業務も多かったので、やりがいという面では疑問を感じることもありました。また、規則に違反しない限りにおいて寮にゲーム機などを持ち込むことは可能ですが、4人部屋で先輩後輩の上下関係はそれなりに厳しかったりするので、仕事が終わってもプライベートがないからキツイと感じる人はいるようでした」

 自衛隊内におけるパワハラやセクハラを元自衛官が告発し、たびたび裁判にも発展しているが、そうした問題行為は常態化しているのか。

「自衛隊はまだまだ組織体質が古くて男社会なので、上官が強い口調や言葉で怒鳴ったり怒ったりといった、一般企業であればパワハラやイジメだとされる行為が普通に行われている部分はあります。ただ、自衛隊の業務というのは、一つのミスで多くの隊員の命が失われるリスクが常につきまとっており、そうした特殊性ゆえに、ミスに対して強く怒るといったことが、やむを得ない面があることも事実です。私自身も上官から強く怒られたことは多々ありましたが、イジメやパワハラを受けたと感じたことはなかったです」

自衛官という職業に就くメリット

 逆に自衛官という職業に就くメリットは何か。

「給料をもらって健康な体をつくれる点でしょうか。私も入隊時は83キロだった体重が数カ月で65キロに落ちて、筋力もつきました。また、やはり公務員という安定した地位を得られる点は大きいです。ある上官からは『住宅ローンが4000万円も組める』と聞かされたことがあります」

 最後に、自衛隊が組織として改善すべき点を聞いた。

「人が足りないといっている割には、足切り制度が残っている点は疑問を感じます。たとえば私がいたころは、陸士長は2任期しかなれず、その間に陸曹に昇進できなければ退職して他に再就職しなければなりませんでした。私も、このまま上のほうの階層に順当に昇進していける自信がなかったことも自衛官をやめた理由の一つですが、そのあたりの制度はもう少し柔軟にしてもよいのではないでしょうか」 

(文=Business Journal編集部、協力=主夫男・太郎/元自衛官YouTuber)

主夫男・太郎/元自衛官YouTuber

元陸上自衛官。オランダ人の妻に付いて行くかたちでオランダに移住。「主婦・主夫・料理好き・海外移住・海外に興味がある人の役に立ちたい」との思いからYouTubeチャンネル「ゆっくり主夫男チャンネル」を立ち上げた。
YouTubeチャンネル「ゆっくり主夫男チャンネル」

Twitter:@syufuo2882

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