NTT、世界初の実験成功「振動を含む空間」伝送…医療やエンタメ業界に変革か

●この記事のポイント
・NTTは世界で初めてリアルタイム3D空間伝送実験に成功し、離れた場所に振動を空間伝送することを実現
・Perfumeのパフォーマンスを含む空間を計測し、遠隔地で空間情報を振動も含めて再現
・大阪・関西万博のNTTパビリオンで追体験が可能
NTTは世界で初めてリアルタイム3D空間伝送実験に成功し、離れた場所に振動を空間伝送することを実現した。今月2日、大阪・関西万博のNTTパビリオン(夢洲)と万博公園(吹田)をIOWNで結び、「動的3D空間伝送再現技術」と「触覚振動音場提示技術」によってリアルタイム3D空間伝送体験を実現した。万博公園でアーティスト・Perfumeのパフォーマンスを含む空間を計測し、そのデータをNTTパビリオンに伝送し、ヒトとモノの空間情報を振動も含めて再現することに成功した。どのような技術なのか、また、将来的にどのような実用・活用事例が想定されるのか。NTTに取材した。
●目次
IOWNとは、NTTが2030年頃の実現に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤。光を中心とした技術を活用して従来のインフラの限界を超えた高速大容量通信と膨大な計算リソースを提供可能なネットワーク・情報処理基盤の構想であり、主に「オールフォトニクス・ネットワーク(情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上)」「デジタルツインコンピューティング(サービス、アプリケーションの新しい世界)」「コグニティブ・ファウンデーション(すべてのICTリソースの最適な調和)」の3つの技術からなる。
百数十個の振動子を床に埋め込み
今回の実験の具体的な内容について、NTTは次のように説明する。
「今回の実験では夢洲のNTTパビリオンと吹田の万博公園をIOWNでつなぎ、『動的3D空間伝送再現技術』と『触覚振動音場提示技術』で、世界で初めてのリアルタイム3D空間伝送体験を実現しました。吹田側では20数台のセンサーやカメラで、数メートル四方単位で、Perfumeのパフォーマンスを含めた空間を計測、その情報を夢洲に伝送し再現しています。計測・撮影された膨大な3次元の点群データと画像データを組み合わせたうえで、リアルタイムで3Dデータを高解像度化するNTTの独自技術を使うことで、ヒトやモノの動きを含む空間情報を高精密かつ高速に遠隔地に伝送・再現しました。また、夢洲側では吹田側から届く位置情報を含む振動データを再現するため、百数十個の振動子(振動を再現する部品)を床に埋め込み、離れた場所にある空間そのものが、臨場感を伴いリアルに再現されました」
遠隔医療への活用などによって医療の発展につながる可能性
では、将来的にどのような形での実用化が想定されるか。
「NTTは次世代情報通信基盤『IOWN』を活用し、まるで隣にいるような、存在を感じる未来のコミュニケーションの創出を目指しています。未来社会では、お互いの距離による影響が極めて少なく、かつ、視覚・聴覚に加え、人間の五感である、触覚、嗅覚、味覚を使った、より相手のリアリティを感じる、『まるで相手が隣にいるような、存在を感じるコミュニケーション』が当たり前になると考えており、この実現を目指しています」(同)
デジタルマーケティング会社のプロデューサーはいう。
「日本では以前からモノ消費からコト消費へのシフトがいわれますが、実質賃金が低下して家計が苦しくなるなかでも、貴重な体験に関する消費意欲は根強いです。例えばライブの市場規模・観客動員数はコロナ禍前を上回り、昨年はともに過去最高を更新したといわれています。コロナ禍でライブの同時配信が一気に広まりましたが、遠隔でも映像と音だけでなく振動を含めた空間情報まで体感できるようになれば、エンタメ産業にとっては大きなビジネスチャンスとなります。このほか、離れていても商品・サービスをよりリアルに体感できるようになれば広告・マーケティングの手法も変わるでしょうし、触感の伝送技術が進化すれば遠隔医療への活用などによって医療の発展につながる可能性もあります」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)